第378話 ミッドウェー上陸
1942年1月12日
山本五十六率いる連合艦隊は、ミッドウェー近海に展開していた。そして、随伴していた陸軍の上陸部隊がミッドウェーの滑走路等の修復に当たっている。
フィリピンとミッドウェーで捕虜になったアメリカ兵は、イギリス領のマレー半島に送られる事になった。そこで、アメリカの艦船に引き渡される。
日本としては、数万人のアメリカ兵を養う事は正直面倒だったのだ。
「ミッドウェーの整備が完了すれば、来月にはハワイ攻略だな。宇垣参謀」
山本五十六はハワイ攻略作戦のレジュメを読みながら、熱いコーヒーを味わっていた。
「そうですな、長官。ミッドウェーの滑走路が使えるようになれば、重爆撃機の運用が出来ます。そうなれば、一度の攻撃で真珠湾の港湾施設を完全に破壊できますな」
「ああ、しかし、出来れば港湾施設はそのまま接収したいものだな。それに、大規模な爆撃をすれば、どうしても人的被害が増えてしまう。アメリカ兵といえども、出来るだけ被害は減らしたい」
「おや?長官がアメリカ兵の心配をするとは、これは明日雪が降るかもしれませんね」
山本も今でこそアメリカ兵の心配もできるが、10年前の自分だったらどうだろうと思う。戦争になれば敵兵の損失など考える事無く、当然に殲滅を最優先としていただろう。しかし、自分も時代も変わったのだ。
「10年前なら敵の損害の心配など考えなかっただろうな。しかし、時代は変わった。いや、日本が変えていかなければならない。今回の作戦の前にも、陛下からそれはキツく言われたよ。出来るだけ敵味方の損害を減らすように。そして、戦争は外交の手段では無いとね。出来れば話し合いで解決したいものだ」
「そうですな。私も戦争は外交の一手段だと思っていましたが、陛下はそれを完全に否定されましたね。“戦争は防衛の最終手段であって、外交の失敗を覆す為の手段では無い”ですか。誠に金言だと感じましたよ」
第一次世界大戦まで戦争は外交の延長であるとの認識が常識であったが、パリ不戦条約によってそれは否定された。
ヨーロッパにおいて甚大な被害をもたらした為、世界の主要国は国際紛争の解決手段として戦争を放棄する事を条約で誓ったのだ。
パリ不戦条約 1928年2月27日
第一条 国際紛争解決のための手段として戦争に訴えない。そして、国家の政策の手段としての戦争を放棄する。
第二条 国家間における紛争又は争議は、どのようなものであっても平和的手段以外に解決を求めない事を約束する。
※このパリ不戦条約は、ほぼそのまま日本国憲法第九条に反映されている。ただ、それを実現するために戦力を保持しないと付け加えられてしまった。
※パリ不戦条約は、2024年現在においても失効していない。
このパリ不戦条約では、基本的に防衛による武力行使以外は認められていない。にも関わらず、史実の世界は第二次世界大戦へと突き進んでしまった。
「アメリカとの戦争は、誰がなんと言おうと防衛戦争だがな。しかし、こうも思うのだよ。追い詰められた人間は何をするかわからないとね。核兵器の使用はリバプール条約によって禁止されたが、国土の喪失を目前にした場合その理性を保つ事が出来るのだろうか」
山本はカップに残ったコーヒーを一気に飲み干した。
――――
カナダ オタワ
カナダ政府は日本との単独講和に踏み切れずにいた。
講和条件の中に、国土の保障占領と先住民に土地を割譲するという項目があったこともそうなのだが、それ以上に、講和をした場合アメリカ軍は越境して首都オタワを占領する事が明かだったためだ。
もしアメリカに占領されてその施政下に入ってしまった場合、カナダ軍が先鋒に立たされてすりつぶされる懸念もある。
しかし、現時点なら日本と比較的穏やかな講和を結ぶ事が出来るが、もしアメリカと運命を共にした場合、カナダの領土が五大湖周辺に限定される懸念もある。引くも地獄、進むも地獄という状況にカナダは立たされていた。
「ルーズベルトめ!なにがアメリカに任せていれば大丈夫だ!」
キング首相は悪態を吐くが、何もかもすでに遅い事はわかっていた。もしアメリカの意向に反して共同参戦国にならなかったら、カナダの経済は行き詰まった事だろう。しかし、いまから思えばそちらの方が何億倍もマシだと思える。
こうしてカナダは結論を先送りにする事しか出来なかった。
――――
1942年1月15日
宇宙軍本部の高城蒼龍の下へ、一人の大学講師が訪れていた。
「高城中将閣下、久しぶりだね。どうだい?私の言ったとおり、日米での最終戦争になっただろ?」
※高城蒼龍はソ連戦終了後、中将に昇進
「石原閣下。今日は嫌みを言う為にお越しになられたのですか?」
高城蒼龍の前に座っているのは、陸軍を退役した石原莞爾だった。
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次回更新は9月30日です。
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