第376話 ミッドウェー海戦(7)
「山本長官、本艦隊に接近しつつあった米軍機は全機撃墜しました。ミッドウェー近辺に脅威はありません」
「よし、よくやった。巡洋艦4隻を脱出したアメリカ軍パイロットの救助に当たらせろ。残りの全艦、ミッドウェーに向けて前進!」
ミッドウェーの航空戦力を壊滅させた連合艦隊は、ミッドウェーを目指して前進を開始した。距離は500km離れているので、到着は早くても明朝になるだろう。
――――
ワシントン ホワイトハウス
「ミッドウェーとはまだ連絡が取れないのか!?」
大統領執務室では、ルーズベルトが陸海軍の高官に対して怒鳴り散らしていた。もうこの風景は、ほとんど日課になっていると言っても過言では無い。
「はい、大統領。ハワイから偵察機を飛ばしていますが、それも行方不明となっており、全く手がかりがありません。日本軍も何も発表していないので、まだ陥落はしていないと思われますが・・・・」
アメリカ海軍に残された空母5隻が撃沈されたと報告のあった直後から、ミッドウェーと連絡が取れなくなっている。明らかに日本軍による大攻勢だろう。
「陥落していないのだったら増援は送れないのか!ハワイには動ける戦艦がまだあるだろう!戦艦ならそうそう沈む事もあるまい!残りの全戦艦をミッドウェー救援に向かわせるんだ!あそこは珊瑚礁の遠浅の海だろう!その浅瀬に座礁させれば沈没する事は無いはずだ!戦艦を陸砲台にして守り切るんだ!」
この時ハワイには、大西洋から回航した戦艦を含めて6隻が稼働状態にあったが、あまりにも速度が遅いため、空母艦隊には加わっていなかった。
「大統領。そんなスーサイドアタック(自殺攻撃)を海軍長官として認めるわけには行きません。もし強行するなら私を更迭していただきたい」
戦艦6隻に乗っている兵員は1万2千名にも及ぶのだ。その彼らに片道切符を渡す事など出来ようはずが無かった。
「か、海軍長官!貴様も裏切るのか!どいつもこいつも!お前も日本とヤルなら今しか無いと言っただろう!くそっ!どうしてこんなことになってしまったんだ・・・」
「大統領。”どうしてもヤルなら今しか無い”とは言いましたが、”今ヤルべき”とは言っておりません。くれぐれも誤解の無きように」
――――
ミッドウェー基地
「空母4、重巡8、軽巡24、強襲揚陸艦8か・・・その向こうには補給艦多数だな・・・ここからだと、海面より敵船の方が多く見えるよ」
ミッドウェー基地司令のライルは、双眼鏡をのぞきながら嘆息を吐く。昨日の日本軍による空襲は苛烈の一言で有り、地上に出ていた航空機や対空砲とほとんどの防塁も吹き飛ばされていた。夜を通して残存武器の収集と塹壕の構築を行ったが、次に攻撃があった場合防ぎきれるとは思えなかった。
そして、昨日の大規模空襲以降日本軍からの攻撃は無いが、一夜明けてみると日本の大艦隊に包囲されていたのだ。
「上陸の阻止は出来るか?」
「はい、司令。航空兵を入れて3000名が動けますが、武器がありません。弾薬庫は爆撃でやられましたので、兵士が持っている小銃と拳銃だけです。上陸阻止は限りなく難しいと思います」
日米開戦から一ヶ月しか経過していなかったため、ミッドウェーの要塞化はほとんど出来ていなかった。その為、昨日の爆撃によって甚大な損害を被ってしまい、ある程度塹壕を再構築したとはいえ、強力な日本軍の上陸の阻止は不可能だった。
「ライル司令。先ほど日本軍機がばらまいたチラシです。どうやら降伏勧告のようです」
日本軍のチラシには、降伏すれば戦争の終結にかかわらず、2ヶ月以内に本国に送還すると書いてあった。逃げ場の無い兵士にとって、今すぐにでも飛びつきたくなるような内容だ。そして、この約束を必ず守る証拠として、同じ内容を短波ラジオで送信すると書いてある。
「短波無線は使えるか?周波数を21.7MHzに合わせろ」
さっきまでは妨害電波によって使えなかった無線だったが今は使えるようになっており、降伏勧告の通り短波で同じ内容を送信していた。受信感度からの推測では、十分な出力で送信していると思われるため、おそらくハワイでも受信できているはずだ。それなら、世界に向けて発信した約束を破るような事はしないだろう。
「どう思う?副司令?全滅するまで降伏を許さないと言う本国への忠誠と兵の命を天秤にかけたとき、私は兵の命の方に傾くと思うのだが?」
「はい、司令。私も司令と同じ意見です」
司令官として降伏を決定するのは非常に難しいことだ。それまで部下に死ぬ事を求めておきながら、自分の命が危険にさらされたなら降伏を選択するのだから。死んでいった者に面目が立たないと思うのも無理はない。
「“命よりも大事な物がある”といって戦を始め、“命より大事なものはない”といって戦を終わらせるか。人とは本当に愚かなものだな」
こうしてミッドウェー基地司令のライルは降伏を受け入れた。
――――
イギリス ロンドン
「これは、酷いな・・・・・・」
この日の朝刊は、その紙面の半分以上を使ってフィリピンでのアメリカ軍の損害を報道していた。
そしてその1面を飾った写真は、爆撃によって死亡したアメリカ人看護婦達の死に顔だったのだ。さらに、認識票によって確認できた戦死者の名前の全てを紙面に載せた。
日本軍は事前に降伏勧告と非戦闘員の避難を求めたにもかかわらず、アメリカ軍は軍属や衛生兵では無い看護婦の退避を行わなかった事を報道していた。そしてどの新聞も、そのアメリカ軍の判断を非難する内容だった。
さらに、イギリス海軍の英雄サマヴィル提督や陸軍のモントゴメリー将軍はインタビューで、“日本軍は必ず事前に攻撃を予告する。にも関わらず非戦闘員の退避を行わなかったアメリカ軍は非難に値する”と答えていた。
このインタビューは日本の非常に強い要請によって行われたものだったが、今回の日米戦争が日本の勝利で終わる事を確信していたイギリス政府はそれを受け入れたのだ。
そして、同じデータをイギリス大使館経由でアメリカの各新聞社に送付していたのだが、アメリカではこの時点では報道されていなかった。
これは、アメリカ政府の“強い要請”によって新聞社が自主的に掲載を見送っていた為だ。しかし、アメリカ以外の国々でその内容が報道されてしまったため、ワシントン・ポストやロサンゼルス・タイムズなどの大手新聞も掲載に踏み切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます