第375話 ミッドウェー海戦(6)
「くそっ!なんて固さだ!」
九九式艦上戦闘機88機でF4Fの編隊に突入したのだが、思うような戦果の出ない事に志賀大尉はいらだちを感じていた。
一撃離脱攻撃によって確実に命中弾を出しているが、F4Fはなかなか火を噴かないし墜ちてもくれない。
厚さ8mmの防弾鋼板によって重要区画が守られているため、12.7mm機銃弾はほぼ防がれていた。また、燃料タンクは胴体下部に配置されているため、主翼に弾が当たっても致命弾にならない。命中弾をより多く出すために、F4Fの速度にまで落とした機の何機かが被弾して、戦線を離脱してしまった。
それでも何度かの攻撃で、60機程度の撃墜に成功した。
「こちら赤城攻撃隊志賀大尉だ。弾がもう無い。これより帰投する」
――――
「敵機が離脱していく・・」
日本軍の九九式艦上戦闘機からの攻撃をなんとかしのぎきったサザーランド中尉は、大きく息を吐いて胸をなで下ろした。そして、周りの状況を確認する。
この空域を飛んでいるF4Fは残り40機ほどになってしまった。ミサイル攻撃から生き残った機が100機程度だったはずだ。ということは60機ほど撃墜された計算になる。さらに、生き残っているF4Fのほとんどは被弾をしているだろうし残弾もほとんど無い。そして、ちょうど爆撃機隊がこの空域に追いついてきた。
この空域にたどり着いた爆撃機は約80機。合計120機の大編隊だが、残弾のほとんど無いF4Fが40機と最高速度400kmほどのドーントレス爆撃機80機では、日本艦隊に打撃を与える事は出来ないだろう。しかし、我々に退くという選択肢は無いのだ。
サザーランド中尉は生き残った僚機に、このまま進軍する事をジェスチャーで告げる。そして、それを見た僚機のパイロットもサムズアップで応えた。その機のコクピット後方には、多数の弾痕があった。
――――
「ミッドウェーの爆撃に成功!駐機してある航空機と地上構造物のほとんどを撃破しました。ただ、艦隊に向かっている敵機の迎撃ではかなりの機数を撃ち漏らしたようです」
旗艦の重巡摩耶で山本五十六長官は報告を受ける。
「想定よりも向かってきている機数が多かったからな。それに、アメリカ軍機はかなり防弾鋼板を使っていて頑丈なのだろう。致し方ないな。それより損害はどの程度だ?」
「はい、山本長官。8機が被弾しましたが、いずれも小破で帰還できるとの事です」
「そうか、それは良かった。残りは九七式に任せるか」
――――
「こちらウッドストック、これより敵機への攻撃に入る」
「こちら玉鳳、了解した。健闘を祈る」
ミッドウェーの爆撃任務を終えた九七式艦上戦闘攻撃機は、アメリカ軍機編隊を追いかける形で北西に飛行していた。そして、機首のフェイズドアレイレーダーはその編隊を既に捕捉している。
槇村美樹子少佐に率いられたウッドストック大隊は、海上500m付近を亜音速で敵編隊に近づきつつあった。敵の高度は2000mから5000m。後ろ下方から出来るだけ気づかれないように近づく。十分目視できる距離に近づいたとき、爆撃機の何機かが九七式艦上戦闘攻撃機に気がついて回避行動に入った。しかし、もう遅い。槇村達は、操縦桿を引いて上昇に転じ、後ろ下方より一撃を加えて上方に抜けた。
――――
「くそっ!ジェット機か!?」
突然現れた九七式艦上戦闘攻撃機は、サザーランド中尉の機を下方からすさまじい速度で追い越していった。そして、少し遅れて“ドン”という衝撃波で機体が振動する。
「なんて速さだ!」
明らかに自分たちの速度の2倍以上は出ている。上方へ抜けていった九七式艦上戦闘攻撃機は、加速しながら上昇して旋回している。そして今度は上から襲いかかってきた。
味方の機は散開して逃げようとしているが次々に撃墜されていく。これだけ運動性能に差があれば、サッチウィーブ機動も通用しない。九九式艦上戦闘機の12.7mm弾に耐える事ができたF4Fも、九七式艦上戦闘攻撃機の20mmガトリング砲に耐える事は出来なかった。
サザーランド中尉は奇跡的に九七式艦上戦闘攻撃機の攻撃をかわし続けていた。もっとも、連中が戦闘機では無く爆撃機への攻撃を優先しているという事情もある。そして、なんとか爆撃機への攻撃を防ごうと九七式艦上戦闘攻撃機に照準を合わせようとするが、その努力が実を結ぶ事は無かった。
「ああ、なんて、なんて・・・・美しい機動なんだ・・・」
サザーランド中尉はなんとか回避しながらも、ある一機の九七式艦上戦闘攻撃機に心を奪われていた。
練度の高い九七式戦闘攻撃機の中にあっても、特に美しい機動を描く機があった。その機はF4Fを追い越しざまに一斉射して回避、そして、きりもみになったように機を回転させた次の瞬間、別のF4Fの後ろにピタッと張り付いて一斉射し撃墜していく。
「そうだ、あれは・・・アンダルシアの踊り子だ・・・・」
その美しくも情熱的な機体は、この大空を真っ赤に染めてフラメンコを踊るカルメンを思わせる、心奪われる悪魔的な魅力に満ちていた。
そしてその踊り子は自機の下から上方に抜けていき、信じられない機動で機首をこちらに向けた。
その瞬間、サザーランドは踊り子と目が合った。バイザーを下ろしているのでもちろん顔が見えるような事はない。しかし、感じてしまったのだ。
「あのパイロットは、女だ・・」
九七式艦上戦闘攻撃機から放たれた20mm機関砲は、正確にF4Fのコクピットを撃ち抜いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます