第374話 ミッドウェー海戦(5)

「ミッドウェーまで距離7000。爆弾投下」


 空母玉鳳と瑞鳳から飛び立った九七式艦上戦闘攻撃機は、500kg通常爆弾およびクラスター爆弾を投下した。通常爆弾は主に滑走路と構造物を、そしてクラスター爆弾は駐機してある航空機と兵員を狙った攻撃だ。爆弾に取り付けられた誘導装置(21世紀のJDAMのような装置)の画像認識および慣性誘導によって、目標から6メートル以内の誤差で着弾する。


 日本軍は衛星画像によって、高射砲陣地がどこにあるか正確に把握していた。そして、それを確実に破壊していったのだ。


 ――――


「前方15kmに敵機を確認。これより迎撃に入る」


 九九式艦上戦闘機隊を率いる志賀大尉は、隷下の小隊に攻撃指示を出した。


 敵編隊は前方にF4F戦闘機が先行し、後方に爆撃機部隊が続いている。発射した対空ミサイルはチャフによって目標を見失い、哨戒機からの情報によると命中率は50%を切ってしまったと言う事だった。


「まあ、その分腕の見せ所があるということだ!」


 志賀大尉は部下を鼓舞して敵編隊に向けて降下していく。スロットルを全開にして850km/hの速度でF4F編隊に突っ込んでいった。


 ――――


 F4Fを操るサザーランド中尉は、前方上空より突入してくる日本軍機に対して、二機一組による「ロッテ戦術」および「サッチウィーブ」戦術を徹底させた。


 ヨーロッパでの戦訓やアメリカ内地での訓練や研究によって、二機一組での戦闘が効果的であるとの研究結果が出たのだ。


 正面上方から迫ってくる敵に対して、このタイミングで回避しようとしたら後ろを取られてしまうだろう。そうであれば、真正面からヘッドショットを狙うしか無い。日本軍の九九式艦上戦闘機はM2ブローニング機銃6丁に対して、このF4Fは同じM2が4丁だ。装備数は少ないが一発一発の火力は同等。しかも、F4Fはグラマン鉄工所製と言われるくらい防弾鋼板を装備して頑丈に作られている。少々被弾しても戦えるはずだ。


 サザーランド中尉は照準器の向こうに九九式を捕らえる。このF4Fに搭載されている照準器は、陸軍で開発されたK-14型照準器をベースにしたK-14N型だ。K-14N型照準器は、自機の速度と旋回角に応じてレチクルが動き、敵機をその真ん中に納めれば、命中するという優れものだ。これなら十分に日本軍に対抗できるはずだ。


 ※K-14照準器 アメリカ陸軍が開発したジャイロ連動照準器。今世では、海軍にもその改良型が供給されている。


「今だ!」


 サザーランド中尉は、少し遠いがトリガーを引いて一斉射する。その瞬間、正面の九九式の翼が光ったのが見えた。敵機も機銃を発射したのだ。


 すぐさま操縦桿を倒して敵からの射線をずらす。そしてバディ(僚機)を確認するとどうやら無事のようで、自機に付いてきていた。


 サザーランド中尉は旋回をして降下に入る。重力加速度を利用して速度を稼ぐ。このF4Fは急降下性能が高く、700km/hまでは出せるのだ。


 しかし、敵の九九式の方がF4Fよりも圧倒的に速かった。追いかけようとした相手はすでに上昇に転じ、1kmは先を飛行している。これでは追いつけないし機銃も当たらない。


 だがこの状況も、サザーランド中尉にとってはそれで良かったのだ。


 一機の九九式が自分の後方上空に取り付いた。サザーランド中尉の機はシザーズ機動をして九九式の射線をずらす。そして、日本軍の九九式がサザーランドを追いかけ狙いをつけた。


 その時、サッチウィーブ機動で付いてきていたバディーが、斜め後ろから九九式に襲いかかったのだ。


 真後ろであれば、九九式の後方警戒レーダーに探知されて気づかれた事だろう。しかし、斜め後ろから一瞬だけ確保できた射線に向かってトリガーを引いたF4Fの機銃弾は、見事に九九式の主翼を捕らえる事が出来たのだ。


 九九式の主翼から一瞬燃料が吹き出す。しかし、それはセルフシールタンクによってすぐに吹き出しが止まってしまった。残念ながら火を噴かす事は出来ていない。


 ※九九式艦上戦闘機の燃料はケロシン(灯油)なので、ガソリンほど燃えない。


 それでも、被弾を認識した九九式は無理をせず、そのまま戦列を離脱していった。


「やったぞ!」


 無線こそ通じないが、九九式を仕留めたバディーにサムズアップをして健闘をたたえる。だが次の瞬間、一瞬の隙を突かれて後方より射撃を受けて被弾してしまった。


「うぉっ!?」


 サザーランド中尉は、自身の背中と頭に激しい衝撃を感じてパニックに陥りそうになった。機体はバランスを崩し降下を始める。耳の中で何かがじんじんとこだましていて、現状が理解できない。


 それでもなんとか機を立て直して水平飛行に戻る事が出来た。どうやら後ろから被弾したようだった。


 しかし、分厚い防弾鋼板に守られたコクピットは、激しい衝撃こそあったがパイロットを守り通す事に成功したのだ。


「グラマン鉄工所製をなめるな!」


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