第367話 マニラ制圧作戦(3)
マニラ市制圧の為、日本陸軍の第一から第五空挺団が夜間降下を始めた。
アメリカ軍は、マニラ防衛をあきらめてコレヒドールとバターンに全戦力を移動している。そのため、マニラを防衛する守備隊は、少数のフィリピン軍と警察機構しかいない。
日本軍が攻めてきたら独立と中立宣言を出す予定だったのだが、日本軍の動きがあまりにも速すぎた。日本は暗号電の解読によって、フィリピンの独立と中立宣言を察知していたのだ。そのため中立宣言を出される前に制圧し、フィリピン臨時政府を樹立してアメリカに宣戦布告する事を画策していた。
「マニラ大統領府制圧とケソン大統領の身柄確保を最優先だ!生死は問わないが出来るだけ生きて捕まえろ!」
日本陸軍第一空挺団を率いる斉藤肇は、降下した部下と共に大統領府および大統領公邸の占拠を目指していた。
「しかし隊長、参謀本部も人使いが荒いっすね。モスクワから帰ってやっと休暇が取れると思った矢先にこれっすよ。“ダイイチ”の隊員は人間じゃないとでも思ってるんすかね?」
陸軍の中では、第一空挺団は人間じゃないとかバケモノだとか呼ばれているが、隊員達は褒め言葉と受け取っていた。それだけ人間離れした能力を持っているということだからだ。
「永倉副長、それだけ信頼されていると言うことだ。この仕事をさっさと済ませて日本に帰るぞ」
「そういや隊長。ポーランド人の彼女が来日する予定だったんすよね?どうするんっすか?」
「ば、ばかやろう!仕事の前にそんな事を言うな!縁起が悪いだろう!」
「縁起が悪いんすか?めでたいことじゃないですか」
「宇宙軍の連中によると、そういうのは“フラグ”って言うらしいぞ。“この戦争が終わったら彼女と結婚するんだ”とか言うとろくな事にならないってな」
「はあ、そう言うもんすかね?」
「無駄口を叩くな!ほらっ!前方にお出迎えだ!」
大統領公邸に続く通りに、フィリピン軍の防塁が構築されていた。300mほど離れていて、敵はまだこちらに気づいていない。
「ハチヨンで無力化しろ!」
※ハチヨン 84mm携行無反動砲
斉藤達は建物の陰に隠れて、無反動砲小隊に攻撃指示を出した。彼らは素早く砲弾をセットして、防塁に向けて構える。そして6発の榴弾が発射され、その内3発が防塁に命中して吹き飛ばすことに成功した。
マニラ市を防衛しているフィリピン軍と小規模な戦闘が発生したが、全て日本陸軍の空挺団の前に一蹴されてしまった。十分な装備も練度も無い現地フィリピン軍に対して、21世紀相当の装備で武装した日本陸軍の空挺部隊が全力で相手をしたのだ。それはまともな戦いにならなかった。
「マニュエル・ケソン大統領だな?小倉大虐殺の共同謀議の疑いで逮捕する」
「バカな!小倉大虐殺の容疑だと?私にそんな権限があるものか!」
小倉を爆撃したB29は、フィリピン経由で中国大陸に渡っていた。そのため、フィリピン自治領政府首脳が大虐殺に荷担したという疑いをでっち上げたのだ。
正式な裁判で無罪になる予定ではあるが、とりあえず、ケソン大統領を排除する大義名分が必要だった。
翌朝までに、マニラ市内での抵抗はなくなっていた。そして、すぐさま国民議会を招集し、現ケソン大統領の弾劾と罷免を決議させた。また同時にホセ・ラウレルを新大統領として選出し、国名も「フィリピン共和国」として完全な独立を宣言、アメリカに対して宣戦を布告した。
これにより、オーストラリア方面の抑えを強化することが出来る。
――――
「認識票を見落とすなよ」
コレヒドール要塞とバターン半島で、米兵の遺体収容作業が開始された。米兵15万の内、8万名ほどが死亡したと推測されている。そして5万名が捕虜となり、残りの2万名がジャングルに逃亡した。しかし、水も食料も無く、しばらくして日本軍かフィリピン共和国軍に投降を始めた。
サーモバリック弾の直撃を受けた周辺の遺体は、真っ黒に焼けたものが多かった。しかし、少し離れるとほとんど損傷の無い、きれいな死体がかなり多く見受けられた。これは、爆轟による圧力で肺がつぶされて死亡したからだ。死亡して30時間ほどしか経過していないため、腐敗も進んでおらずただ寝ているだけのようにも見える。しかし、その全てから魂は抜けていた。
「赤十字か・・・」
防空壕の前に落ちている赤十字の看板を目にして、斉藤はつぶやいた。
「簡易酸素マスクを持ってきてくれ」
アメリカ軍が用意した野戦病院なのだろう。入り口付近に散乱していた死体を片付けて、斉藤は部下の数名を連れて防空壕の中に入っていく。
懐中電灯に照らされた壕の壁はうっすらと煤けていて、そのまだらにも見える焼けた跡が自分たちを責め立てているような、そんな気がした。
「斉藤隊長、これは・・・・・」
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