第323話 ベルリン攻防戦
「総統閣下。やはり、起爆スイッチからの配線が巧妙に切断されていました。さらに、信管の火薬だけ抜き取られています。現在研究所より技術者を呼んで修復に当たらせております」
ヒトラー総統の暗殺計画に関わったとして逮捕されたフロム大将は、現在ヒトラー親衛隊によって尋問がされている。自白等はしていないが、新型爆弾の起爆装置に偽装をしている時点で裏切りは確定だった。
「そうか、ご苦労だった。あとどれくらいで修復は完了するのかね?」
「はい、総統閣下。あと2時間程度で完了する見込みです」
史実でも、フロム大将はヒトラーの意向に反対し暗殺計画に関わったと疑われ、死刑が執行されている。今世では、ヒトラーがベルリン市民を道連れにして核爆弾を使用することを懸念し、起爆スイッチを入れても爆発しないよう細工をしていたのだ。
1941年4月18日
英仏軍は、ベルリンまで10kmの地点に迫っていた。
上陸してからここまで、ドイツ軍による大規模な攻撃は無かった。ただ、ほとんどの橋梁が爆破されていたため、工兵部隊による仮設橋の構築に時間がかかり、当初のスケジュールより数日の遅延が発生していた。
「モントゴメリー司令。ドイツから返答です。“偉大なるドイツ民族は劣等種に屈することは無い”です」
ベルリンの西側を固めた英仏軍は、ヒトラーに対して降伏勧告を実施していた。もちろん、ヒトラーが降伏を受諾するとは思っていない。そもそも、返答すらしないのではと思っていたのだが、指定した期限ぎりぎりに返答してきたのだ。
「そうか。無視をするかとも思ったが、ちゃんと返答してくるとはな。では、前進を再開だ」
ベルリンを半包囲している英仏軍は、慎重にその包囲を狭めていく。現在ベルリンを防衛しているのは、ナチスの武装親衛隊を中心とした2万名ほどの歩兵と、ヒトラーユーゲントに所属する10歳から21歳の少年少女達1万名ほどだった。※男子は10歳から18歳
ヒトラーユーゲントの少年少女達は親衛隊の指示の下、土嚢を積んで防塁を構築し、迫り来る英仏軍に対してライフルを構える。また、一人に一個ずつ手榴弾も配布されていた。最後は手榴弾を持って英仏軍に突撃する事が命じられていたのだ。
1941年4月19日
「くそっ!撃ってくるのは子供ばかりじゃないか!」
ベルリンの中心に近づくに従って、小さな防塁の陰からの攻撃が増加していった。ヘリコプターの支援によって順次破壊をしているのだが、少しだけでも障害物が残っていれば、そこにヒトラーユーゲントの少年少女達が貼り付いて撃ってくる。そして残弾が無くなると、手榴弾を持って突進してくるのだ。
こちらを殺そうと迫ってくるものがあれば、それを撃って止めなければならない。それが年端のいかない子供であってもだ。
防塁を携帯無反動砲で破壊し、反撃が無くなったことを確認して進軍する。そこには吹き飛んだ土嚢に混じって、バラバラになった少年少女の死体が散乱している。重傷を負ってうめき声を上げている子供の元に駆け寄ったなら、その子は手榴弾のピンを抜いて英仏兵を道連れに自爆をする。
英仏兵は、自分の子供と同い年くらいの少年少女から、親の仇(かたき)を見るような、怒りのこもった視線を向けられるのだ。そして、その子供たちを撃たなければならない。英仏軍兵士達の中には、発狂してしまう者が続出していた。
――――
英仏軍は、ベルリン市街の西部地区にあるハーフェル川の川岸にまで進軍していた。この地域にはシュパンダウと呼ばれる古い要塞がある。この要塞は1557年から建設が始まり、1885年頃に現在(1941年)の形になった歴史的建造物だ。しかし、ナチスはこの要塞の中で毒ガスの研究をしており、その事は連合国も把握していた。
むやみに攻撃を仕掛けて万が一毒ガスの流出が発生した場合、甚大な被害の出る可能性を考慮して、この要塞を大きく迂回することが決定された。二手に分かれた英仏軍は、北西と南西からベルリン中心街に迫ることになった。
1941年4月20日
「アドルフ・ヒトラー。あなたはアーリア人の純血であることに間違いはありませんか?」
黒い神父服に身を包んだ秘書のマルティン・ボルマンが、ヒトラーに対して問いかける。
「はい、私はアーリア人の純血であることに間違いはありません」
「エヴァ・ブラウン。あなたはアーリア人の純血であることに間違いはありませんか?」
「はい、間違いありません」
「ここに、アドルフ・ヒトラーとエヴァ・ブラウンの結婚を認めます」
総統府の地下壕で、ヒトラーとエヴァの結婚式が執り行われた。この日はヒトラー52歳の誕生日でもある。
「諸君!今この時点より、ドイツ民族の存亡を賭けた最後の戦いが始まる!最後の大隊(ラストバタリオン)がその強大な力を発揮する時がついに来たのだ!」
ゲッペルス夫妻をはじめとした側近達に向かって、ヒトラー最後の演説が始まった。その演説は、全ての迷いと憂いを払拭した、往年の力強さを取り戻したかのような堂々としたものだった。
「エヴァ。私と最後まで共に歩んでくれるかい?」
「はい、総統。もちろんです」
エヴァは目に涙を浮かべてヒトラーを見つめる。もうすぐその“最後の刻”が来る。その瞬間まで、このお方を支えよう。そして、二人で永遠の旅に出るのだ。そう心に決めたエヴァに、なんの迷いも無かった。
「エヴァ。では、行こうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます