第315話 江青
投票日当日の選挙活動は禁止されているため、毛沢東は久しぶりに静かな朝を迎えることができた。
「おはようございます、毛同志。朝食が出来ていますよ」
疲れがたまっていて少し遅く起きてしまった毛沢東に、妻の江青が優しく話しかける。いつも自分より遅くに寝て、そして自分より早くに起きて朝食を作ってくれる素晴らしい妻だ。この選挙戦も一緒に戦った。もし、これで第一党になれなかったとしても、それはそれで良い。政策立案に加わって、少しずつ共産主義の理想を実現していけば良いのだ。江青が傍らにいてくれさえすれば、どんな困難なことでも戦い抜けると、毛沢東はそう思った。
「準備が出来たら、一緒に投票に行きましょう。今日は私たちの中国にとって素晴らしい一日になりますよ」
二人は朝食を済ませ、一緒に投票所に向かった。
毛沢東と江青は投票所まで歩いて向かう。もちろん周りには護衛もいるが、人民と少しでもふれあいたいと思った毛沢東は、道行く人に挨拶をしながら歩いた。そして、いつしか人だかりが出来てしまった。
と、その時、
「死ね!毛沢東!」
群衆の中から一人の青年が走り出した。そしてその青年は短刀を構えて毛沢東に突進する。
「危ないっ!」
そう叫んで毛沢東と青年の間に割って入ったのは、毛沢東の傍らにいた江青だった。
「取り押さえろ!」
毛沢東の護衛の者達が青年にタックルをして押し倒した。そして、数人がかりで押さえ込む。
「毛沢東!お前は死ね!蒋総統の治める中国にお前などいらぬ!」
「だまれ!」
護衛達はみんなで青年を殴り倒した。しばらく殴り続けると、その青年は意識を失ってしまう。
「殺すな!背後関係を吐かせるんだ!」
青年は共産党員に引きずられて連れて行かれた。
「青(せい)?青!しっかりしろ!」
毛沢東は妻の体を抱きかかえて座り込んだ。江青の顔は既に蒼白になっており、腹部からは黒い血があふれ出ていた。
※肝臓が傷つくと黒い血が流れる
「毛同志・・・おけがはありませんか・・?」
江青は消え入りそうなか細い声で毛沢東の体を気遣った。
「しゃべるな!すぐ医者を呼ぶ!死ぬな!青!」
毛沢東は取り乱して、江青の腹部を押さえた。しかし、流れ出る血はとどまることがない。
「毛同志、あの青年を憎んではいけません・・・・。おそらく、誰かに踊らされたのだと思います・・・・その者こそ、5億人民の敵なのです・・・毛同志・・・どうか、中国の人民をお救いく・・だ・・・・・・」
「青!青!」
毛沢東の叫ぶ声もむなしく、江青は静かに永遠の眠りについてしまった。
――――
江青を刺した青年は、意識を取り戻した後の尋問(拷問)で、蒋介石に直接指示されたと自供した。国家を救うことが出来るのは君だけだと言われたらしい。
そして毛沢東は、共産党軍全軍に命令を出した。
「全て殲滅せよ」
――――
「なんだと!私はそんなことを指示してはいない!」
蒋介石の指示で毛沢東の暗殺を企て、結果妻の江青が死亡したとの報告を受けた蒋介石は、あまりの出来事にパニックになっていた。
「どういうことだ!私は指示を出してはいないぞ!いったい誰がそんなことを!」
蒋介石は確かにそんな指示は出していない。最新の世論調査でも、共産党の支持率が一番低く、わざわざ毛沢東を暗殺する必要も無いのだ。
「陰謀だ!中国が平和になることを嫌う何者かの陰謀に違いない!毛沢東にメッセージを出せ!これは陰謀だ!」
しかし、時は既に遅かった。怒りに燃えた毛沢東は、共産党軍に南京へ進軍するように指示を出していたのだ。
国共合作によって平和が訪れると思っていた国民党軍は、共産党軍の進軍に対してほとんど抵抗する事が出来なかった。
中国にとっての、終わりの始まりだった。
――――
「江青が暗殺されただと?一体中国で何が起こっているんだ!?」
宇宙軍本部では、江青暗殺の一報を聞いた高城蒼龍が、事態の急変に驚いていた。
「とにかく情報収集だ!ロシアの有馬公爵にも連絡を入れるんだ!それと、宋慶齢の警護を強化しろ!」
一通りの指示を出した後、高城蒼龍は一人で執務室に戻った。
「リリエル、どういうことだ?江青には悪魔が憑依していたんだろ?なんで死ぬんだ?」
ここで江青が死ぬというのは、あまりにも想定外の出来事だった。最も危惧されるのは、この事件によって中国内戦が再開されてしまうことだった。中国の平和が目の前に来ていたのに、その直前で壊れてしまうとは・・・。
「私にもわからない・・。でも、これだけ離れていても激しい憎悪を感じるの。この憎しみは・・・すごい渦になって人々を飲み込んでいく・・・。光りと闇と人の渦が・・溶けていく・・・魂すら・・・消えて行ってしまうわ・・・・。もう、誰にも止められない・・・・・・・」
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