第294話 ル号作戦(1)
オデーサからへルソン付近に展開していたルーマニア軍は、本国の降伏とクーデターの知らせを聞いて、ドイツ軍と戦わずに本国に帰還することを選択した。しかし、ルーマニア軍が本国に帰還した後、連合国軍として参戦することを危惧したドイツ軍は、ルーマニア軍の包囲殲滅を決定する。
兵力こそあるが満足な武器も補給も無いルーマニア軍30万人は、次々に撃破され戦場の露となっていった。
枢軸国のこの混乱によって、ウクライナ方面での侵攻が停滞する。
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一方シベリア方面では、ウラル山脈の直前まで日本軍は進軍していた。そして、ソ連軍はドイツ軍の侵攻に対応するため西方に戦力を振り分けようとしたのだが、その度に日本軍は圧力をかけ、ソ連軍の多くをシベリア方面に釘付けにした。
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1940年9月中旬
ギリシャ アレクサンドルーポリ港
九六式主力戦車をはじめとする、日本陸軍とロシア陸軍の大部隊が上陸しつつあった。
21世紀の大型車両運搬船の様な船体から、次々に車両が降りてきている。その他の輸送船からは、大きな背嚢を背負った歩兵達も上陸してきた。
日本陸軍欧州方面軍
総司令 阿南惟幾(あなみこれちか)中将
総兵力 260,000人
九六式主力戦車 1,400両
その他装甲車両 3,000両
榴弾砲 9,000門
トラック等 12,000両
陸軍航空隊
九七式戦闘攻撃機 90機
零式戦闘攻撃機 48機
九九式戦闘機 320機
九八式襲撃機 110機
九八式重爆撃機 300機
回転翼機 180機
その他 210機
海軍航空隊
九七式戦闘攻撃機 220機
零式戦闘攻撃機 52機
その他 58機
ロシア帝国陸軍欧州方面軍
総兵力 110,000人
九六式主力戦車 600両
その他装甲車両 1,300両
榴弾砲 4,000門
トラック等 6,000両
ブルガリアとルーマニアが連合国に降ったため、ギリシャ→ブルガリア→ルーマニアの鉄道が利用できるようになった。このことによってフランス沿岸での敵前上陸ではなく、より安全なギリシャ経由での侵攻に切り替えたのだ。それに、敵前上陸の場合、強襲揚陸舟艇が不足しているという事もあった。
陸揚げされた戦車や装甲車は、無限軌道車両は鉄道で運び、装輪車は道路を走ってルーマニア北東部に集結する予定だ。そしてすぐにジェット機の運用が出来るよう、耐熱舗装用のアスファルトと加熱装置、ローダーなどの工事用車両も準備してある。
「阿南中将。大本営からです。ル号作戦の開始は10月10日午前零時に決定です。それまでに、ルーマニア東北部への移動を完了させるようにとのことです」
総司令の阿南中将に佐久間参謀が報告をする。
「そうか。ついにこの欧州の地に、我が栄えある帝国陸軍の勇姿を見せつけるときが来たのだな」
阿南は天皇の侍従武官を務めたこともあり、天皇にとって“兄”のような存在であったとも言われる。
天皇から馬術の指導を要請されて、天皇の後ろに乗馬したこともある。また、乗馬の指導で阿南の服が泥で汚れた際には、天皇が着用していた白シャツを脱いで阿南に下賜したこともあった。
阿南はその時のシャツをこの欧州に持ってきており、ル号作戦実行の際には着用すると決めていたのだ。
日本を出立する際の壮行式の事を思い出す。
「阿南(あなん)。欧州でのナチスとソ連の暴虐から人々を守って欲しい。この世界の未来は、阿南(あなん)の双肩にかかっている。ナチスとソ連の両軍を相手にしなければならないが、きっと阿南(あなん)ならできると信じている」
天皇は阿南の手を両手で強く握り、まっすぐに視線を合わせて“信じている”と言って激励した。
その天皇の言葉に、阿南は涙を流して言葉に詰まってしまった。
“ああ、私は幸せ者だ。世界一お優しい君主に使えておるのだ。しかし、私の名前は阿南(あなみ)なんだけど・・・”
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8月8日から開始されたドイツ軍のソ連侵攻作戦、バルバロッサ作戦によって、この二ヶ月間でウクライナと白ロシアのほとんどがドイツに占領されていた。そして、スターリンの出した徹底抗戦命令によって一般市民も武器を持って戦ったことにより、この2ヶ月間で400万人もの市民が犠牲になってしまった。白ロシアとウクライナは、何処に行っても人間の焦げた匂いと腐臭が充満している。そこはまさに、この世の地獄だった。
1940年10月10日午前零時
「ル号作戦開始!」
総司令の阿南(あなみ)が作戦開始の号令を発した。そして、その号令と共に総兵力37万の大軍がルーマニア国境からウクライナとモルダビアになだれ込んでいく。
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あとがき
4月2日(火)は臨時休載します。
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