第188話 チャーチル vs 吉田茂(1)
<ベルリン>
ヒトラーは、レーダー海軍元帥とゲーリング空軍元帥を呼びつけていた。
「2,500機が撃墜されてシャルンホルストとグナイゼナウが撃沈されるとはどういうことだ!日本軍の対空ロケットは300発程度では無かったのか!それに戦艦が二隻もまとめて撃沈されるなど、あってはならぬ事だ!海軍は何をしていたんだ!」
ヒトラーの怒りはすさまじかった。顔を真っ赤にしてレーダーとゲーリングを怒鳴りつけている。
「総統閣下。我が軍の分析が十分ではなかった為、この様な結果になってしまった事を、深くお詫びいたします。しかし、生存者からもたらされた日本軍の情報が正しければ、現在の科学水準を大幅に上回る兵器を日本は運用しております」
「ゲーリング元帥。それはどういうことかね!?」
「はい、総統閣下。日本の戦闘機と空中戦を行ったパイロットによりますと、その降下速度は1,000km/hにも達しており、さらに人間には絶対に耐える事の出来ない急旋回をして上昇し、6,000m付近まで800km/hほどで上昇をしたそうです。この様な事ができる戦闘機を設計するとなると、エンジン馬力は3,000馬力以上、さらに、旋回加速度に耐えるために、我が軍でも研究中の対Gスーツが必要になります」
さらにゲーリングは続ける。
「ダンケルクの時よりも、急降下速度が上がっております。おそらく、ダンケルクでは、性能を隠すために、わざと最高速度を抑えていたと思われます。また、対空ロケット弾ですが、第一次攻撃では300発程度であり、これは我が軍の分析と合致しているのですが、巡洋艦からさらに1,000発程度発射されたようです。そして、その対空ロケットをかいくぐった爆撃機も、巡洋艦の高角砲に全て撃墜されてしまいました。その高角砲の命中率は、ほぼ100%だったという事です」
レーダー元帥もゲーリング元帥も、日本の巡洋艦の写真は入手しており、7年前の黒海での情報や分析の結果、命中率の高い高角砲と35mm機関砲を搭載しているのだろうと言う結論だった。ただし、命中率が高いと言ってもせいぜい1%程度、良くて5%程度だと思っていた。しかし、これが100%となると、想定の戦力の100倍にもなってしまう。それに、ロケットの発射台のような物は確認できていなかった。あんなに激しい噴射炎を出すロケットを、艦内から直接撃てるなど、想定外だったのだ。
※この当時の高角砲の命中率(至近弾を含む)は0.2%程度
「それは事実なのかね?そんな高度な兵器を日本が開発をしていたと?」
「はい、2,500機もの損失が、事実であると物語っております。さらに、シャルンホルストとグナイゼナウを葬った対艦ロケット弾に至っては、射程400km以上で、確実に命中させる事ができると思われます。現時点では、日本軍に対して我が軍の出来る事は全くありません」
会議室を沈黙が支配する。この報告が本当なら、日本軍に対して手も足も出ない。幸い、日本が派遣してきている戦力は、空母二隻と巡洋艦が20隻程度だ。ヨーロッパ大陸への再上陸作戦や、ドイツ本国を攻撃する事はあるまい。しかし、これではイギリスを占領する事は出来ぬ。
しかも、東から日本に攻められているソ連に攻め込む“バルバロッサ作戦”も再検討が迫られるだろう。日本軍を放置したまま戦力を東方に移してしまえば、英日連合軍にフランスを奪還される可能性がある。
ヒトラーは考える。英日との戦線は膠着状態にして、さらにバルバロッサ作戦も延期し、その間に占領地を整備して国力の増強を図った方が良いのでは無いだろうか?フランスから資産を没収する事によって、MEFO手形の償還も進める事ができる。それに、場合によってはソ連と一時的に手を組むのも有りか。
※MEFO手形 ドイツが発行した、財政的裏付けの全く無い空手形
「バルバロッサ作戦は延期する。そして、ジェットエンジンとロケット兵器開発に全力をあげるのだ。スパイを総動員して日本の技術を手に入れろ!それと、兵器局から提案のあった新型爆弾だが、あれの開発も急がせろ。現状では、新兵器の開発が無い限り、日本には勝てぬ事を認めねばならぬな」
翌日午後、ベルギーのオーストエンデ沖50mの浅瀬に墜落していた九九式艦上戦闘機の残骸が、ドイツ軍によって回収された。
――――
「この報告は本当なのかね?」
チャーチルは、ファウルネス島沖海戦(山口艦隊とドイツ軍との戦い)の速報を読んで愕然とする。
ドイツ軍機3100機の攻撃をはねのけ2,000機以上を撃墜し、シャルンホルストとグナイゼナウまでも轟沈とある。おそらくドイツ軍の戦死者は、1万人以上に達しているはずだ。それに引き替え、山口艦隊の損害は、被撃墜6機、被弾9機のみで戦死者無し。
これは、一方的な虐殺と言って良い結果だ。我が英軍は、何千人もの戦死者を出しヨーロッパ大陸から追い出されてしまった。ドイツ軍に対して何も出来なかったのだ。それなのに、日本軍は遠征艦隊のみで、ドイツ軍機を2,000機以上撃墜し、戦艦二隻を葬ったというのか?しかも、戦死者を一人も出さずにか?
「ちょっと信じられないが、事実なんだろうな・・・・。秘書官、日本の大使と山口司令と会談を持ちたい。それと、ド・ゴール(フランス亡命政府の首班)にも声をかけてやるか。会談の場を準備してくれ」
――――
「吉田大使。よく来てくれました」
チャーチルが満面の笑顔で日本の吉田茂大使を迎える。しかし、そのわざとらしい笑顔と振る舞いは、どこか慇懃無礼な雰囲気を醸し出している。
ファウルネス島沖海戦で示された日本海軍の圧倒的な軍事力を、どうしても手に入れたいイギリスの求めによって会談が設けられることになる。
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