第151話 開戦(1)

1939年9月12日22時(現地時間)


 ノモンハン日本軍陣地


 後ろに四角い箱を載せた大型トラックが15両到着していた。さらに、砲弾らしき物を積んだトラックが30両随伴してきている。


「今夜、ソ連軍陣地を殲滅するらしいぞ」


「でも、新型戦車も投入してきたソ連軍だぞ。そんな簡単に殲滅ができるのか?」


「宣戦布告をしたからな。もう遠慮はいらんということだろう。今到着したのは、陸軍で開発をしていた秘密兵器だそうだ。初陣らしいぞ」


「ソ連軍陣地まで40kmあるが、ここから攻撃できるのか?」


 前線の兵士達は、次々に到着するトラックを不思議そうに見る。準備をしている兵士からロケット弾だという話が聞けた。そして、ここからソ連軍陣地を殲滅するらしい。


 トラックの荷台に載せられていた四角い箱が斜め上方を向いた。ソ連軍陣地のある方角だ。ライトに照らされたその兵器は、6発装填のロケットランチャーだった。


「・・・・3、2、1、発射!」


 9月13日0時丁度、ついに日本軍からソ連軍への総攻撃が開始された。


 パシュッパシュッパシュッ!


 ランチャーから6発のロケットが発射される。野砲と違って、それほど爆発的な音はしない。発射されたロケットは、真っ暗闇の中、煌々と噴射炎を光らせながら彼方の空に消えていった。


「次弾装填!急げ!」


 発射の終わったユニットは取り外され、次のユニットが装填される。発射してからユニットを交換して次の発射まで5分。陸軍ロケット砲兵部隊の練度は非常に高かった。


 ――――


 ソ連軍陣地では、先日の夜襲以来警戒を厳重にしている。本日、日本から宣戦布告を受けたとの情報が、このノモンハンにももたらされており、すぐにでも大々的な反攻があるのでは無いかと皆警戒している。先日のような夜間急襲をもう許してはならない。


 ドーーーン!ドーーーン!


 突然ソ連軍陣地の上空で爆発音がした。しかも次々に連続して爆発音がする。


「敵襲か!?」


 天幕で寝ていたソ連兵はその爆発音に驚き、皆飛び起きた。そして、その瞬間、


 ドドドドドドドドドドドッ!


 辺り一面で、擲弾の様な物が止めどなく爆発する。そしてその爆発は天幕の屋根を突き破り、そこにいる兵士を次々に殺傷していった。


「擲弾だ!防空壕へ急げ!」


 ソ連兵は悲鳴を上げながら逃げ惑う。しかし、空から降ってくる擲弾はあまりにも数が多く避けることは出来ない。みな、レンガ造りの兵舎か防空壕に駆け込もうとしていた。


 ――――


 日本軍が使ったのは、“多連装ロケット”兵器だ。様々なタイプのロケット弾を打ち出すことが出来る。


 今回使用した弾頭は、目標の200mほど上空で炸裂し、一つのロケットから最大518個の子弾をばらまくことが出来る。いわゆるクラスター爆弾だ。


 一つ一つの子弾の威力はそれほどでも無いが、外や天幕の中に居る歩兵にとっては最悪の兵器と言って良い。


 十五両の多連装ロケットから次々にロケット弾が発射され、その数は450発に及んだ。そして、そこからばらまかれた子弾は、実に233,100個にもなったのだ。


※宇宙軍が開発したクラスター爆弾は、不発弾対応の為、水に濡れると信管が固着して爆発しなくなるように作られている。


9月13日午前1時ごろ


 約一時間後、擲弾攻撃が収まった。


 生き残ったソ連兵達が、防空壕から恐る恐る這い出してくる。電柱や送電設備は完全に破壊されているので、明かりは点かない。予備の発電機もこれでは役に立たない。皆懐中電灯の小さな明かりを頼りに、辺りを確認する。


 そこはまさに地獄だった。


「た、助けて・・・・・」


「目が、目が・・・・」


 威力の小さい擲弾の大量投射だったので、即死している兵は少なかった。あちらこちらからうめき声や助けを求める声がする。皆、腕や足を無くしていたり、内臓が飛び出していたりと、すぐに止血や輸血をしないと助かりそうに無い兵ばかりだった。


「対空火器の確認を急げ!次の攻撃があるぞ!」


 あれだけの擲弾の投射となると、航空機からの爆撃くらいしか想像できなかった。しかし、擲弾は威力が小さいので、幸いにも戦車や装甲車はほぼ無傷で残っている。動ける戦車兵はとりあえず戦車や装甲車に乗り込み、エンジンをかけた。


 先日夜襲のあった際に使われた日本軍の機銃は20mm程度だった。20mmであれば、戦車なら耐えることが出来る。


 ブオオオオォォォォォ・・・


 空から航空機の物らしいエンジン音が響いてきた。しかし、聞き慣れたレシプロエンジンの音とは違うような気がする。これは、航空隊が遭遇したという日本の新型機かもしれない。


 バオオオォォォォォォォォォォォ・・・・


 すると突然、機関砲の発射音が響き渡る。すさまじい連射速度だ。


 そして、T34をはじめとして駐車してある戦車が次々と爆発していった。


「新型戦車が機銃でやられたのか?」


 ソ連軍戦車に攻撃を仕掛けたのは、陸軍九九式襲撃機だ。


 全長 15.20m

 全幅 17.12m

 2,800馬力ターボプロップエンジン2機

 最大速度 580km/h

 最大積載量 4,500kg(翼下ハードポイント)

 武装 90口径35mm機関砲1門(780発)


 史実のキ96試作双発戦闘機の機首を長くして、一回り大きくしたような機体だった。エンジンは主翼より上に位置する、YS11のような配置になっている。そして、最大の特徴は90口径35mm機関砲を機首の下に装備し、対戦車戦闘に特化していることだ。


 宇宙軍からターボプロップエンジンと赤外線暗視装置やアビオニクスの提供を受けて、陸軍主体で開発をした襲撃機だ。陸軍では対ソ連・対ドイツの戦争を想定して研究を重ね、広い大陸において効率よく敵戦車を破壊するためには、35mm機関砲で装甲の薄い天板を攻撃するのが最適であるとの結論に達した。


 そして、その35mm機関砲を載せて、十分な機動ができる機体というコンセプトで開発をした結果が、この陸軍九九式襲撃機である。


 また、陸軍の航空機として初めて愛称が付けられた。その名は“雷電”だ。


 雷電は低速でソ連軍陣地の上空を旋回しながら、赤外線照準器で目標を定め、戦車や装甲車を次々に破壊していく。


 ソ連軍に抵抗するすべは無かった。


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