第136話 ノモンハン事件(1)
清蒙国境では、1935年頃から国境紛争がたびたび発生するようになっていたが、ほとんどが小規模な衝突で、そのころには死者が出ることも希であった。
しかし、1938年7月には関東軍第19師団とソ連陸軍が大規模な戦闘を行い、双方併せて数千名の死傷者を出すことになる。
この張鼓峰事件は、なんとか外交的にお互い手を引くことができたが、両陣営のフラストレーションは既に限界に達していた。
1939年5月
両軍の衝突は、遂に本格的な戦闘に発展してしまう。いわゆるノモンハン事件だ。
ソ連はT-28中戦車やBT高速戦車といった新型戦車を投入し、日本軍に対して妥協する気はないという強い意思を表示した。今までのように手打ちにする事は無いと。
「くそっ!戦車団の増援はまだなのか!」
日本軍は塹壕を掘り、歩兵と少数の八九式中戦車と九七式中戦車でなんとか戦線を維持していた。しかし、明らかに劣勢だ。
ソ連のBT戦車に搭載している45mm20k戦車砲は初速760m/s、1,000mでの貫徹力は約50mmと強力だ。日本軍の戦車は一発でも食らえば、簡単に装甲を貫通されてしまう。また、徹甲弾以外にも普通榴弾も撃てるので、塹壕に向けて曲射されてもやっかいだった。
日本軍は塹壕からの機関銃射撃で、ソ連軍歩兵の進軍を阻止していた。戦車は歩兵の随伴支援が無ければ進軍はできない。ソ連軍戦車の撃破はほとんど出来ていなかったが、歩兵の足止めをする事で、なんとか防いでいる状況だ。
しかし、物量に勝るソ連軍の猛攻を、いつまでも防げるわけでは無い。
7月に入ってからは、日本軍戦車の損失が30両以上と壊滅的な損害を被り、徐々に戦線を後退させていった。
5月に衝突が始まった頃には、ソ連軍はI-15戦闘機を投入してきていたが、日本陸軍の九七式戦闘機には歯が立たず日本が航空優勢を取ったため、ソ連軍は地上戦に主力を移していた。
ソ連軍基地を航空機によって攻撃できれば少しは戦局が有利になるのだが、この頃の日本陸軍の航空機は、数も少なくまた対地攻撃のできる攻撃機の装備もほとんど無かった。
また、国境を越えての敵基地攻撃は禁止されていたため、航空機の活躍の場が限られるという事情もあった。
1939年7月下旬
待ちに待った西少佐率いる戦車第九連隊が到着する。
新型戦車の九七式中戦車改一20両と改二15両および補給部隊からなる連隊だ。
「これが九七式改か・・・・」
現地ノモンハンで激戦に耐えていた第一戦車団の兵士達は、到着した九七式改を見て皆感嘆の声を上げた。
ここノモンハンに投入されている九七式中戦車も、一昨年制式化されたばかりの最新鋭戦車だ。しかし、ソ連軍T-28中戦車相手では攻撃力も防御力もかなり劣っている。ソ連の強力な機甲部隊は、日本軍に衝撃を与えていたのだ。
しかし、今到着したばかりの九七式中戦車改は、これが同じ戦車かと思えるほどの改造がされていた。
車体は折り紙で作ったように平面を貼り合わせた構成になっている。そして、装甲はリベット留めでは無く、全溶接だ。また、履帯の幅も広がっていて、走破性も向上していた。
車体前面装甲は45mm高性能防弾鋼板の傾斜装甲だ。避弾経始の効果もあり、正面から着弾した場合の実質装甲強度は120mm(均質圧延鋼板換算)にもなる。
また、砲塔前面も一部に70mm防楯を使って強化され、横幅もほぼ車体幅と同じくらいまで拡張されていた。
ベースの九七式中戦車と並べても、それと知っていなければ同じ戦車とは思えないほど外観が変わっている。
「西少佐、良く来てくれた。これで戦線を押し返すことができるよ」
第一戦車団の安岡中将は西少佐に謝意を述べる。
「安岡中将閣下。遅くなってしまい申し訳ありません。九七式改の最終調整に時間がかかってしまいました」
「そうか。しかし、これが九七式改か・・・。とても同じ戦車とは思えないな」
「はい。ソ連軍の新型戦車に対しても対抗できるように強化が図られております」
この九七式改は装甲の強化だけでなく、エンジンや武装も強化されている。
九七式中戦車改のエンジンはコンパクトなユニフロー2ストロークV型8気筒13Lディーゼルエンジンに換装され、出力も420馬力に強化されていた。そして、空いたスペースに大容量発電機とバッテリーを搭載し、砲塔や主砲をモーターによって高速に動かすことが出来るようになっている。
そして改一には、新開発された47mm72口径戦車砲が搭載されている。この砲の初速は1,100m/sを誇り、500mでの貫徹力は100mmに達する。
また、改二には、35mm90口径対空機関砲を対戦車用に改造したものを搭載した。1,400m/sの高初速で、500mでの貫徹力は110mmだ。ブローバック式の自動装填に改造しているので単発発射も連射もできる。それに、高初速故の命中率の高さも特筆に値する。初速が速く弾道がまっすぐなので、500mまでの距離ならほとんど弾道の降下がないのだ。ただし、仰角はそれほど取れないので、対空戦闘には向かない。
この九七式中戦車改は、宇宙軍の技術支援を受けはしたが、全て陸軍内で開発を行った。いわば、陸軍の魂の結晶である。そして、開発に携わった西少佐も自信を持って戦場に送り出せるだけの完成度を達成したのだ。
「すごいな!この九七式改は!これならソ連の戦車にも負けることはないな!」
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