708話 ばかだよ?


 夜中にもかかわらず報道各社は首相官邸1階の記者会見室に集まっていた。

 緊急の会見を開くと一報が入ったのもそうだが、外部から『どうやら巫女が大変な事になっているらしい』という情報が各社入っていたからだ。

 ただ「お前等また何やらかした?」と言外に匂わされていて嫌な汗が止まらなかったので慌てている…というのはある。

 そして浅野副総理が会見に現れた。


「ったくよぉ…官房長官いつまで空席かねぇ?ああ、緊急会見を始める」

 浅野副総理が入ってきたことでざわめきが消え、カメラや録音機は一斉に副総理の方を向く。

「一部情報が入っているとは思いますが、数時間前に神々の巫女、岩崎友紀氏が『人間の限界を超え、消失の危機。現在緊急隔離治療中』という連絡を受けました」

 ザワッと報道陣がざわめく。

 そのざわめきに副総理は冷たい視線を向ける。

「どうも元より限界を超えるほどの働き詰めだったところにバッシングや神不要論を打ち立てる馬鹿共によるストレス、更にはそれらに対して神々が完全に見捨てようとするのを必死に止めていたが…ついに本人が使い続けているスキルの限界を迎えたようだ。

 精神不安状態の中大規模なスキルを使い続けたら普通は倒れたりスキルが解除されるが、巫女様のスキルの兵は未だ動き回っていて職務を全うしている。

 分かるか?巫女様は瀬戸際に居ながらもまだ神々の饗応をし、関係箇所の警護を行っているんだよ。

 俺ァ代議士だ。有権者から貴重な一票を戴き公選された。

 そして国政の場で重要な地位にいるためにこうしてこの場に立って重要なことを喋っている。

 隠さなきゃいけねぇ事も沢山ある。国同士の取り決めの中でやりとりをした機密事項や軍事機密等々国防、国体に関することだったりするわけだ。

 そこを突いて陰謀論だ何だと騒ぎ立て本質を見もせず秘密を暴きたがる…分かっているのか?今回の件もそうだ。報道は面白おかしく囃し立て、火を付けて大火事になったら謝るだけで何も出来てないだろうが。

 他国に知られちゃならない重要情報を暴いて結果国が滅んでもお前さん達は責任とらんだろうが上の人間クビにする程度で事がおさまるか?

 なあ、やらかしたのは何回目だ?そしてその対処をしたか?

 これは全国民にも言えるぞ?俺らは現在も必死に動き回っている。ダンジョンに入れる一部議員は入ってマギトロン採掘をして結界維持のために少しでもと動き回って石板に奉納している。

 報道こそしてねぇが俺の地元では俺が自腹切って探索者とハンター部隊を組織、今も結界維持のためにダンジョンに潜ってもらっている。

 殆どのヤツが騒ぐだけ口を開けるだけ…結果がこれだ。

 ついさっき神敵となった国が出来たが、農作物と鉱物を枯渇、職業能力値を半減、スキル効果も半減。そして審議の石板を撤去だ。分かるか?化け物共に体も魂も喰われて死ぬか、飢え死にしろって事だ。

 神は恵みを与える神も居るが、祟る神も居る。忘れたか?

 神不要論を騒ぐ連中よぉ、本来国は百年、千年の大計を以て組み上げていくんだがよ…百や千の命を犠牲にしても万の命を救わなきゃならねぇ時もあるんだ。俺らは代議士だ。政治家だ。そんな決断をしなければならない立場だ。

 国自体が神々に切り捨てられる所を巫女様に救ってもらっている。それどころか人類を救ってもらったのに一部の馬鹿共がいけしゃあしゃあとその巫女様の顔に泥をぶつけているんだぞ?

 なあ、火を着けた連中よ。落とし前付けろよ。今回の件、下手をすると人という種が馬鹿共のせいで死に絶えるぜ?

 国として出来る手を打ってその横から壊していったウォッチドッグさんよ?一部の馬鹿共よ?自分たちが神を崇めていたから神が居た?数パーセントはそうかもしれんがな、そこに在られたんだ。だから崇めた。形式的に祈りながら別のこと考えていただろ?それで崇め奉る?馬鹿言うな。

 俺らはもう何百年もそれをしなくなっていたんだよ。そして巫女様がその希有な力で神々を癒やしていたがそれに石を投げ続けたんだ。先祖がしたこと、知らなかったなんて言うなよ?あの記者会見からどれだけの日にちが経った?考えを、行動をあたらめたか?答えはもう出ているだろうが」


 時折視線方向を変えながらもそれだけ言い切り、浅野副総理は息を吐く。

「今回の要点は数時間前に神々の巫女、岩崎友紀氏が『人間の限界を超え、消失の危機。現在緊急隔離治療中』という連絡を受けた。そして現在現在緊急隔離治療中らしいとのことだ。普通の医療云々じゃねぇ。それがどういう事か分かるだろう?

 そして神国イ・ブラセルを襲撃し、神敵国家が現れた。その国は農作物と鉱物を枯渇、職業能力値を半減、スキル効果も半減。そして審議の石板を撤去というペナルティを受けたようだ。これらに対する我が国が出来る事はほぼ無い。巫女様に関しても神国に関してもこれ以上いらんことをして事を荒立てたくはない。

 会見は以上だ」

 報道陣は一言も発することが出来ず、浅野副総理が退出するのを見送っていた。


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