707話 残酷な代議士のテーゼ


SIDE:世界・日本


「神国に攻撃を仕掛けた部隊は何も出来ず撤退したようですね」

 リアルタイムの動画を見ながら秘書官が呟く。

「───まあ、ミサイル数百発受けても無傷だったようだからな」

 同じく動画から目を逸らさず大統領はそう返す。

「十数発は爆発することなく消えたようでしたが…」

「恐らくその消えた十数発は恐らく帰国しているようちの航空機とパイロット達のようにね」

「えっ?」

 ボソリとそう呟く大統領に秘書官が思わず聞き返す。

基地等ママのところに帰っているだろうなと言ったんだ。確認してくれ」

「周辺国含め確認します」

 秘書官がどこかへ連絡を入れる。

 と、目の前の電話が鳴った。

 大統領は少し顔をしかめたが、ゆっくりと受話器を取る。

「───、───ああ、わ…何っ!?」

 固まり、その後すぐに大声を上げる。

「巫女様が、消滅危機?どうし…ああ、バッシング等は聞いているが……、ああ、そう言う事か。いや、君の私見混じりであってもそれはそうだと納得できる。

 あのような奇跡の連続使用を何度も出来るものでもないだろうし、そんなバッシングの中かつて助けた所から味方が攻撃を受けそうだと聞いてはな…」

 大統領は沈痛な面持ちで大きく長いため息を吐く。

「我々は化け物にまともに勝てなかったが、巫女様から神への嘆願により化け物をなんとか倒せるようになってきた。

 これがどれだけの功績か…ああ、首脳陣の洗脳解除や悪魔討伐、神敵解除含め巫女様関連の功績がありすぎて我々は……そうだな。任せる」

 通話を終え、大統領はもう一度大きく長いため息を吐いた。




「…馬鹿な。巫女様が………」

 その報告を聞いた磯部総理はドサリとその場に座り込んだ。

「おう、どうし…いや、どうした!?」

 磯部総理の異常に浅野副総理が慌てて駆け寄ってきた。

「…浅野さん、巫女様が、限界を…現在現在緊急隔離治療中との事です」

「はあ!?」

「我々は…巫女様になんの恩を返すことなく…いえ、恩を仇で返したまま」

 浅野副総理がブツブツと呟く磯部の肩を揺する。

「磯部!確りしろ!」

「…済みません浅野さん。巫女様が亡くなったわけではないですよね…」

「そこだ。何があった?」

 ヨロヨロと立ち上がりながら浅野副総理に連絡のあった内容を説明する。

「───なんてこった…」

 頭を抱える浅野副総理。

「広めろと言ってもこれは…無理があります」

「念のためもう一度確認を取った上で緊急会見をする必要があるだろうな」

 2人揃ってため息が漏れ出る。

「で、誰からの電話だった?」

「中務省の関係者からです」

「こちらに残っている連中か…いや、お前なら直通があるだろ」

 浅野副総理に言われ個人用のスマートフォンを取り出す。

「……あ」

「あってなんだ。あ、って」

「協会本部から文書で来ています…これをそのまま報道用文書にした方が良いかもしれませんね」

「テメェだけで納得してねぇで俺にも見せろ!」

 磯部総理のスマートフォンをひったくり、内容を読む。

「…おい?限界を迎えるのと限界を超えるのはちぃと違うぞ?」

「聞き違えではないですよ!?あちらも伝言ゲーム状態だったと思うんです!」

「…まあ、文書としてもらえるのは本当にありがたいな…国民を混乱と絶望に叩き落とすか…」

「浅野さん、顔、顔」

「何だよ」

「罠に嵌め落とす悪人の顔になっていますよ」

「当たり前だろ?俺ら政治家だぜ?ここで国民に訴えずに何時訴える?」

 ニチャァ…と口元に笑みを見せる浅野副総理を見て思い切り顔を引きつらせる磯部総理だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る