706話 壊れかけの巫女
SIDE:世界
とある情報が瞬く間に世界を駆け巡った。
巫女が人間の限界を超え、消失の危機。現在緊急隔離治療中。
その情報に、世界が震撼した。
司令室に駆け込んできた2人を白城とメリアがギョッとした顔で迎え入れ、話を聞き、揃ってため息を吐く。
「人でありたいが故に、ですが…確かにあのままだと遠からず人としての限界で消滅するかと思われますが、既に神ですから」
「だな。しかし…体は既に人の範疇から逸脱していたが、心まで───」
白城とメリアの台詞にマイヤとリムネーが泣きそうな顔をする。
「あの、私には分かりかねるのですが、人の心を持ち神となっている者はいるわけですから───」
『でも、価値観が違うの』
「……あー、確かにそうですね。一兵卒と大将、ミクロとマクロというくらいの違いですね」
「例え下手か。まあ、地域や世界という大局の為に個を捨てる必要があるのは確かだが…簡単に捨てて良いものではないのも確かだ。しかし、急に休むなんて話を通せるのか?」
「藤岡課長であれば普通に通せるだろう。神々関連の問題で休みを取りたいと言えば良い」
口調が変わっている白城にメリアは少しつまらなさそうに視線を逸らす。が、
「ここは正直に話した方が得策かも知れんな」
「んんっ?」
白城の台詞にメリアがバッと白城を見る。
「世界を引っかき回し、遅滞工作をする」
ニヤリと笑う白城にメリアは「あ、これはマズイ」と顔を引きつらせた。
「マイヤ嬢、リムネー嬢。確かに承った。ただ一点だけ頼みたいことがあるんだ」
『?』
『何でしょうか』
「神国の神々…今回はユグドラシル殿が良いか。彼女に至急今回のことを伝えて欲しい。それに『巫女様の心が不安定になっていた』と付け加えて欲しい」
『確かにお父様の心は少し不安定になっていましたが…分かりました』
マイヤとリムネーの2人が司令室から出て行く。
「何をするつもりだ?」
「言っただろう?世界を引っかき回し、遅滞工作をする。と」
「だからその詳細だ。何を企んでいる?」
「あの世界の人類は甘えすぎ、頼りすぎだ。そして学習能力がなさ過ぎる。喉元過ぎれば熱さを忘れる…なんて言葉があるようだが、鳥以下だぞ?」
「…仕方ないだろうが。遠征に行った際確認したが、人の6割が程度はどうあれ汚染を受けているんだ。何百年もな。
気付かない神々も大概だが…境界を作り関与しないよう努めた結果だろうしな」
「ああ…確かに私が出た東北も汚染されていたが3~4割程度だったが」
「…なんなんだろうな。で?」
「簡単に言えばこちらの考えも含め伝えるのさ。しかもそれを広めるよう伝える」
「…大事になるじゃないか」
「しかし大事になる頃には神々も大事になるだろうな」
にちゃあと昏い笑みを見せる白城にどん引きするメリア。
「さて、私は事情を伝えてくる」
そう言って白城は席を立った。
「………分かりました。復帰時期不明としておきます。岩崎のためにも拡散希望…ですか」
「まあ、本当は言わない方が良いかもしれないが…伝えなければ分からないだろうし、危機感を持って欲しいからな」
白城の台詞に藤岡は頷き、関係各所に緊急で聞いた事をそのまま伝えた。
───にもかかわらず、伝言ゲームの如くとんでもない内容で広がっていったのは…言うまでもなかった。
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