574話 話し合いと、繋がり


「ゆう」

「なぁに?」

「機嫌悪いな…あの件、まだ引っ張っているのか?」

「一応は納得しているけど…うん」


『おっ?兄弟喧嘩か?』

『でもなんか夫婦喧嘩手後の雰囲気っぽさも』

『どんなだよw』

『あー…なんか新婚夫婦の軽い衝突感かぁ』

『いや分かるんかい!』

『嫁と口喧嘩した後の空気感だw』


「…しょうが無いな。ほら、膝の上においで」

「ん…」

 兄さんの膝の上に座る。

 後ろからギュッとしてもらう。

「無理に理解しなくて良いんだぞ?アレの心と思考が未熟すぎただけだと説明しても感情が拒否するんだろ?」

「…感情も、半分は受け入れている」

 兄さんを殺そうとした事への怒り、世界と僕を何とかしようとしてくれた兄に対しての明確な否定。

 何故それを行ったのかを理解出来ず、怒りが表に出た。

 でも、兄さんに「この世界は幼子のようなもの」と言われて我に返った。

 世界自体も箱庭レベルなのに、その考えは無かった。

 それ以前に、世界に意思があることまで考えが至らなかった。

「無理に呑み込まず、咀嚼しろ。咀嚼すれば分かることもあるし、中に潜む毒も分かる。吐き出したければ吐き出せば良い」

「ん…」

「なあ、昔言ったと思うんだが、何か大きな事が降りかかってきた場合の魔法の言葉、覚えているか?」

「…うん」

「言ってごらん」

「『そんなものだから仕方ない』と『どうすれば良いか考えよう』」

「意味は?」

「起きた事、現状は変えられない。だから受け入れて冷静になって最善を考えよう」

「この件に関してそれを当てはめると?」

「…しっかりと学習させたら後々までの得になる?」

「まあ、70点だな」


『俺ら、兄妹のいちゃつきを見せられている?』

『これは良いてぇてぇ』

『巫女様が幼く見える!』

『甘やかしボイス助かるぅ』

『ふぅ…』

『巫女様が女の子に見えるぅぅぅッ!』


 コメント欄が騒がしいなぁ…

「ん?待ち人が来たようだぞ?」

 そう言われエレベーターの方を見ると、そろそろこの階に到着する。

 確か鎌鼬の幼体って言ってたから…空間操作を使って神気濃度を薄めなきゃ。

 エレベーターが開き、課長と3匹のイタチが姿を見せる。

 課長は僕らに気付いて真っ直ぐこちらに向かってくる。

『スタジオにどうぞ』

 そう言うと課長は頷いて入ってきた。

「はい、第二のゲストは日本探索者協会本部の藤岡課長と保護した鎌鼬の幼体です」

「ああ、どうも。探索者協会の藤岡だ…何故配信?あと、何故お兄さんの膝上で抱きすくめられている?」

 なんか、課長が凄く困惑している?

「うちの家では割と良くやっていることですよ」

「まあ、そうだな…」

「この兄妹は距離感がバグっているな…お前達、このテーブルの上に立て」

 課長がそう言うとイタチたちがテーブルの上にチョコンと飛び乗ってきた。

「「「キュッ!」」」

「生後20年経たずか…お前達はダンジョンにいたのか?」

 兄さんが鎌鼬に問うと3匹とも首をかしげ、首を横に振った。

「ふむ…純野生種か。この辺りは発生しないはずだが、誰の手のものだ?」

「「えっ?」」

「きゅ!きゅぅぅ!」

「「きゅ!?」」

「…ああ、であれば九尾の管轄だな。日が昇ったら九尾の元へ連れて行ってやろう」

「「「きゅうっ!!」」」


『いや訳分からないんですが!?』

『動物(妖怪)と会話できる兄者先生』

『先生!翻訳お願いします!』


 兄さんはコメント気付いたのか軽く顔を上げ、

「此奴らは殺生石付近に元々いたハグレの鎌鼬だったらしい。それで九尾を母のように思っていたと…それで九尾を追ってここまで来たらしい」

「じゃあ、実家で飼うの?」

「まあ、放し飼いだが…防衛範囲が強化されるし、傷薬の提供が可能になるからあの一帯は更に強化されるな」


『何その人外魔境』

『妖怪達に守られている地域!?』

『待って!?九尾狐って!』

『大丈夫なのか!?それは!』

『モフモフパラダイスだと!?』


「あの人?は兄さんにベタ惚れだから大丈夫だよ。ね?」

「…やたら懐かれているな…あと、周辺住民とも仲が良い。体力もだいぶ回復したようだしな」

「あの、九尾の狐は裏切りなどは…」

 課長が心配そうに聞いてくるけど、その可能性は…

「無いですねぇ…」

「無いだろうな」

「ぇえー?」

 いや、あの人、本心から兄さんにべったりだから…


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