573話 放送と、配信
SIDE:日本某所
「視聴率、一部キー局以外はゴールデンタイムですら軒並み一桁だそうですよ」
建物の外で煙草を吹かしていた男性はやってきた青年にそう言われため息を吐く。
「まあ、各局40人以上の逮捕者出す時点で信用は無いわな」
「スポンサーも大口が離れて何も出来ない…退職者も出てきて…クソッ」
青年は建物を蹴る。
「正しい報道、監視者の役割を果たさなかったんだ。こうなるのも当然だ」
タバコを灰皿に押しつけ男性は笑う。
「俺らは特権意識を持ちすぎてたんだよ。俺らが流したことによって人が死んでもゴメンナサイで終わりだ。俺らのせいじゃねぇ…なんて囀った結果がこれだよ」
「でも俺らのせいじゃ「なぁ」」
青年の言葉を遮るように男が言う。
「企業問題を取り上げた際、俺らはなんて聞いた?会社全体の問題では無いのかと、信用問題だと必ずわめき散らしたよな?」
「っ!!」
「俺らも同じなんだよ。5つの基幹局の内4つ、そして公共放送まで『腐っている』と審判が下された。残り1つもまあ、五十歩百歩だが…この未曾有の事態、俺らは死んだも同然からどうやって信用を取り戻す?悪くないと言い続けるか?」
「……バラエティやドラマで時間を稼げば良いじゃないですか」
指摘されたのが不満だったのか青年はぶっきらぼうに言い返す。
「その間にもっとやばいのが出て来るぞ?しかもそれらはネットを主戦場としたニュースメディア民営組織が俺らみたいに次々と情報をリークしていく」
「!?」
「新聞社、出版社全部ガサ入られて、クリーンな所は何処も無い。情報の秘匿を訴えようが、それを盾に犯罪犯していたんだから俺らにどうこう言う権利はねぇのさ」
「………」
青年が青ざめた顔で男性を見る。
「元記者で独自調査が売りの動画配信者が立ち上げた会社が数社ある。今後はそれらが台頭してくるだろうな…そしてまともな仕事も出来ない俺らは肩を叩かれる」
「今まで通りじゃ、駄目なんですか?」
「その今まで通りをして一桁なんだろ?しかもゴールデンタイムで」
「………やる」
「ん?」
「辞めてやる!やってられっかこんな仕事!」
急に癇癪を起こして叫く青年を見て苦笑する。
「辞めるならちゃんと退職届は出しておけよ?」
青年が肩を怒らせて建物の中に入っていくのを見届け、タバコを取り出す。
「…最近の若者は堪え性がないねぇ…まあ、俺もそんなにないが」
自嘲するように笑い、タバコを燻らせたまま空を見上げる。
「これで在り方は変わる。漸く、流れを戻せるかなぁ…定年間際まで獅子身中の虫、笑えねぇな…後は俺の始末だy」
バスン、という音と共に男は後ろ向きに倒れる。
入口に立っていた警備員がそれを見て大声を上げながら男へ駆け寄り、救急車を手配する。
辺りが騒然となる中、男は消えゆく意識の中「ああ、煙草の火、消してねぇ」とどうでも良いことを思い浮かべた。
SIDE:スタジオ
『巫女様寝てないんじゃ無いの!?』
『早朝配信助かるけど…寝た?』
『姫様おはようございます』
『早朝すぎません?』
「いやぁ…色々ありまして?三十分程度の雑談をしようかなと。聞きたいこともありますし」
『辛いことでもあったの?』
『なになに?』
『どしたどした?』
「いえ、カレーと麻婆豆腐は甘口と激辛どちらが好きですか?と。僕的には中辛なんですが、そこはあえて外します」
『カレーは激辛。麻婆は甘口』
『カレーは甘口で麻婆豆腐は四川式のしびれるような辛さが欲しい』
『両方とも甘口で』
『激辛一択。病気になるくらいの辛さで』
『ワイも涙が出て耳がキーンとなるくらいからいやつが良い』
『食べる際は薬味は取り除いて食べるんだよ?』
『何で!?』
「成る程…甘口よりも激辛が多いですね…特に麻婆豆腐」
『もしかして、作ろうとしてません?』
『あっ、これは…』
『ロリ神様方にレクイエムを奏でる時間が!?』
『カレーは辛口を何とかする方法はあっても麻婆は…』
『アウトー!』
「今日のお夕飯は麻婆豆腐にしようかなぁと…皆さん楽しそうで何よりです。実は今日はゲストがいまして…兄さんです」
「ども。兄です…ただ、俺を紹介してから聞かないか?」
『出たラスボス!』
『神々からチート扱いされる兄参上!』
『大統領をぶん殴った御方w』
『リアルラノベ主人公見参!』
『世界に平然と喧嘩を売れる兄!』
「…何で俺こんな色々言われてるんだ?」
「まあ、兄さんだし…兄さんは両方とも辛口というか激辛だよね?」
「そうだな。でも中辛でも旨いモノは旨いからな」
そんな雑談をしながら僕は課長を待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます