527話 先手、石長比売様 後手、人間の裏切り
石長比売様がゆっくりと僕らの前へ…あ、座布団座布団。
急いで座布団を用意する。
「ありがとう」
石長比売様は座り、息を整える。
「結論から言います。裏切ったのは5神。そしてその神の神託によって力ある神は名を別けられ、力を分割して祀られることにより神格を落とされて強制的に封じられたのです」
「五柱…」
佑那の呟きに僕は「伊邪那岐様と、蛭子神様…あとは…」
と呟くと、石長比売様がどん引きしていた。いや、何故?
「いえ、あの…なぜ伊邪那岐様が…」
「えっ?戦犯だから」
「………」
石長比売様が固まっちゃった。
「えーっと、石長比売様。兄さんのことは放っておいて、その五柱に関しては…」
「っ、あ…失礼。蛭子神様、伊邪那岐様、天照様と高御産巣日神様、神産巣日神様…に関しては少し違うのですが、この五柱の神々です」
「うん。分からない!」
佑那ェ…しかし…
「造化三神のうち二柱って…」
「造化三神に元々その二柱はいなかったんだが」
「「「え゛っ!?」」」
お兄様ッ!?
今石長比売様からも僕らと同じレベルの驚きの声が上がりましたよ!?
「そそそんなっ!?」
「宇摩志阿斯訶備比古遅神と天之常立神を忘れていないか?」
「あ、いえ…忘れてはいないのですが…」
「全の天之御中主、地の宇摩志阿斯訶備比古遅神、天の天之常立神で造化三神…というよりも天之御中主がこの二柱、概念神を生み出したんだが…その証として単独神だぞ?」
「っ!?」
「で、国之常立神と豊雲野神は天之御中主を別けて力を削ごうとした結果だ。そして高御産巣日神、神産巣日神こそが神世七代の神だ。要は伊邪那美命の同期だな」
「………!?」
あの、兄様?石長比売様の説明、要らなくない?あと要調査とか言いつつ知ってますやん!
「しかし、確かに国之常立神様と豊雲野神様の名を知ってはいましたが、存在そのものは…」
「そうなってくると、人ってとんでもないね…神の力を削ごうと呪いを掛けるなんて事を」
「佑那は何故呪いだと思った?」
「えっ?だって名をつける行為はそうでしょ?」
「………この子は馬鹿なの?か頭が良いのか…」
「まあ、間違っていないんだけど」
「あれ?違うの?」
「違ってはいないが、微妙に違う。
確かに、神はシステム側でありルールを作る側である。更に言えば人とは別のルール上に生きている。
ただ、多少は重なる部分があるために勘違いしがちではあるけど…
「じゃあ人が裏切ったというのはどういう事でしょうか」
佑那の問いに石長比売様は暗い顔をする。
「力を別け、同時に名を別けて祀ることを自身が崇める神に奏上し、その神が許諾した結果、位の高い神が自身より格下の神を別けるの。強制的に」
「うわぁ…横暴…」
「結果、かなりの神が力を落とした。それに気を良くした結果、あろうことか天之御中主様に牙を剥いた」
「無駄なことを…」
「それを理解していなかったのでしょう。その神のルールの外にいる完全な別天津神にはそれらの行為は無駄。結果は空白の主神座が出来上がった…」
えっ?
「待って?じゃあ、裏切りの五柱の神様って、もういないの?」
「残滓は残っていますが、居りません」
「………うわぁ、色々変な方向に動き出したぞぅ…」
「えっ?」
「いや、蛭子神様が須佐之男命に成り代わっていたりとか色々やっていたみたいなんですけど…」
「ああ、月読尊は天之常立神の元にいる。須佐之男命は蛭子神の甘言に乗って神人へと降りて地上へ下ったと最近聞いたな。さて、蛭子と天照。本来の位は誰が上だ?」
兄さんが僕に問う。
「蛭子神様が先に生まれているから…蛭子神様?」
「そうだ。だが天照がトップとなっているため蛭子は暴れ…文献にあるから知っての通りだな」
「「oh…」」
「因みに、超どうでも良い話だが、今不在の神々へ祈った場合造化三神の分霊が代理で現れ───」
「待って?あれ?僕須佐之男命の偽者に会ったよ!?」
「恐らく蛭子の残滓では?」
「でも残滓だったら伊邪那美お母さんとかすぐ分かるよね?」
「確実に分かるな」
「でも分からなかったよ?」
「……京都での話か?」
「うん他の神様方も須佐之男命だって言ってた!」
「相応の神が成り代わっているのか、蛭子が生きているのか…調べる必要があるな」
兄さんは大きなため息を吐いた。
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