520話 先手、飲み仲間 後手、齟齬とは
「んっ?前から面識はあったぞ。誰なのかは聞いていなかったから知らないと言うだけだ」
兄さんらしからぬ…と言うわけでも無いか。
相手が名乗りたがらなかったり、名乗らない旨説明されたらそのまま対応だし。
ただし相手に害意や悪意が無いこと前提だけど。
「兄さん兄さん。その天之御中主様ってどんな神様なの?」
「ご多分に漏れず酒が好きな神だ。見た目は…背中まである黒髪だが少しよれたコートに隠してるな…綺麗な女性寄りの男性と言った中性的な姿だがそのコートとなんだか煤けた雰囲気が全てをマイナスにする…擬態を行っている」
「なんでそんな面倒なことを」
佑那は首をかしげる。
「どうしても漏れ出る高貴なオーラと綺麗な顔。これをその雰囲気で中和させているんだよ。ある程度酒が入るとはっちゃけるが」
「「はっちゃけるんだ…」」
神様だし仕方ない…のかな?
酒カスゴッドが自分の食い扶持と信仰をキチンと稼いでいたという事実や兄さんとのみ仲間だったという事実は置いておくとして…
「兄さんは地球のダンジョン信仰について調べたりした?」
「ああ。3視点からの調査結果は本部に報告してある」
「3視点?」
「人、神、外観測者の3視点だ」
え?何それ欲しい!
「その3視点って意味あるの?」
佑那なんて事を!?
「ああ。人は文献メインだが、古史古伝の類には載っていたが中世以降は全くないという不思議な状態だった。あと神に関しても何故か二分されている。そして外観測者なんだが…彼等が言うにはダンジョンは4度、地球に侵攻しているらしい」
「「?」」
まずその前提がおかしくない?
「ずっと戦い続けていたんじゃ無かったの?」
「ここがおかしなところでな…日本と世界では違うんだ。そして…石長比売。彼女は間違いなく全てを知っているし、天之御中主も恐らく知っている。しかしそれ以外の日本の神々はほぼ敗北していた可能性が高い。
ただ、取り込まれたわけでは無いのでダンジョンに対する敗北ではないが…裏切りにあったのかなんなのか…その部分は継続調査事項となっている」
「因みに4回って?」
「紀元前が1回、紀元500年から700年辺りが1回、900年から1000年辺りが1回、そして40年前から今現在だな。ただ、大侵攻があったという意味で、橋頭堡は恐らく1回目と3回目に作られた可能性が高い」
「「40年前?」」
10年ズレてる?
「ああ。40年前から世界中での同時侵攻が始まっているらしい。ただ、何故か日本は5年遅れの35年前からの侵攻で、更にはかなりゆっくりだったようだ」
ああ、これは…
「日本は既に問題なしと判断されていた?」
「可能性はあるが…そこで天之御中主が出てくる。恐らくあの御仁が粛正して回った可能性がある。もしくは別途協力を取り付けたか…」
や、ややこしい…!
「調略を巡らせたと?」
佑那が真剣な表情で兄さんに問う。
「恐らく第二次は天之御中主が出張る前に裏切り者によって敗北直前までやられ、あの御仁の力で五分に戻したんだろう。そして裏切り者を粛正し、現在に至っている」
「じゃあ伊邪那美お母さんも?」
「黄泉勢はそもそも関わっていない可能性が高い。何せ言動が一貫している。ただ、一部の神々の言動不一致がなぁ…」
そう言って兄さんは廊下から僕たちをジッと見ている石長比売様を手招きした。
「さあ、石長比売様。貴女が引き籠もっていたもう一つの理由を友紀に教えてあげてください」
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