523話 先手、確認 後手、異類婚姻譚

【その沖縄がダンジョン発生の中心地という可能性は?】


 コメントの一つに目が行った。

「あー…それは、ないんだ。ただ、なんて言うかなぁ…最初のダンジョンって、同時に2カ所出来てね…1カ所は僕たち含め各国の神々が厳重に封をしている」

 せお姉様がそう言いつつもなんか遠い目をしている。

「何かあったんですか?」

「いや、うん…もう一つの原初のダンジョンなんだけどね…日本にあったんだ。富士の嶺に………もう無いけど」

「もう、ない?」

「うん。定員一名のみが入ることが出来るダンジョンで、生け贄ダンジョンとまで呼ばれた踏破不可ダンジョン。数年前に何者かが踏破して完全に潰されちゃった…気が付いた時には消滅していたから、日本に原初のダンジョンはないよ」

 何者か…うん。

 それ、兄さんじゃね?十中八九。


 その後簡単な反省会をし、僕らはスタジオから出た。

 ───簀巻きさんと社長さんに関してはもう少し情報収集とお仕置きするらしい。

 で、ゆる姉様と磯部さん達を捕まえる。

 伊都子さんはアイドルの澤辺さんとマネージャーさんを新しい部屋へ案内した後に合流という事で。

 皆さんを僕の部屋に招待し、おじさんから渡された封筒をテーブルの上に置く。

「これは?」

 ゆる姉様が僕を見る。

「謝罪に来ていた記者さんが渡した物です。一部メディアが僕を敵視する理由と、調べられた範囲でのダンジョンと関係のある人物の証拠写真データ…らしいです」

 ゆる姉様含めた全員が驚愕の表情をする。

「…まさか」

 僕は封を切り、中身を取り出す。

 A4用紙11枚とマイクロSDカードが入っていた。

 最初の3ページ288人にわたるダンジョン関係者及び利益者。

 次の5ページ程288人のうち、72人の証拠参照付き行動記録と詳細。

 最後の3ページは犠牲となったジャーナリストや資産家、そして協会が把握していないダンジョンの情報だった。

「…何世代も掛けて引き込んだ結果だろうね。このリストがあれば、私達でも調べることが出来る」

 ゆる姉様が静かにそう言うと磯部さんにレポートを見せる。

「………俺でも知っている政財界の第一線級の人間が多いな…そして被害者はライバルだった人間か」

 レポートを流し読みしてため息を吐く。

「多分諸外国とは違って利益と情を以て引き込んだんだろうね」

 結界や聖域、神域が他と比べて多いこの国だからこそダンジョンは警戒に警戒を重ね、ゆっくりと侵食していったのか…

「でも、おかしいですよね。これだけの人がダンジョンのことを昔から知っていたとはとても思えない」

「それはダンジョンが取り込んだ妖怪を尖兵として活動しているからかと」

 偽記者…ではないか。密偵記者(仮)さんの一人がそう答える。

 妖怪と人が交わるって話は古くからあったりするけど…えっ?もしかしてそう言うこと!?

「全てがそうとは限りませんが、可能性はあるかと思います」

「私はそこら辺は分からないから、せっちゃんに聞かないと何とも言えないなぁ」

 異類婚姻譚がここで引っかかるな……って事は。

「もしかして、過去に取り込まれた神様とかは?」

「少なくともこの神域や祈念珠を受け取った連中は問題無い」

 ゆる姉様がキッパリと否定してきた。

 それなら最悪は回避出来ている…と言うべきなのかな。


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