522話 先手、お届け物 後手、洒落にならない可能性

 せお姉様の待つスタジオに戻り、話を再開しようかと言う時、内線が光った。

 どうやらコンシェルジュさんからのようだ。

「どうかしましたか?」

『現在、お客様が巫女様へ渡して欲しいと封書を持参しておりまして、何やら重要なことだからと』

 なんだか少し困惑した様子。

「今向かいます」

 僕はそう言ってスタジオを出た。



 そこにいたのはヨレヨレのスーツを着た草臥れたおじさんだった。

「突然の訪問、申し訳ありません私はこういう者でした」

 そう言って名刺を差し出す。ん?

「でした?」

「はい。社を退職しその足で真っ直ぐここに来たのですが…生きてここまで来られましたね…まず始めにお詫びを。

 これまで我々がご不快な思いをさせ、申し訳ありませんでした。

 後日もし同じ封筒が届いた場合は破棄して戴いても構いませんので、こちらをお受け取り下さい。私どもの最後のスクープであり、幾つかの謎を解く手掛かりとなる…と自負しております」

「謝罪は受け取ります。謎、ですか」

「はい。その中にも書いてありますが、一部メディアが貴方を敵視する理由と、調べられた範囲でのダンジョンと関係のある人物の証拠写真データがあります」

 えっ!?

「───もっとも、調べたのは私だけではなく有志一同の犠牲も込み…ですが」

 穏やかに微笑む。

「公表しようとした者はだいたい葬られています。もしかすると私も…と思い郵送と直接の2パターンを試みました」

「大丈夫なんですか!?」

「まあ、実家に帰るのでそう手出しは出来ないと思いますが」

 手出しが出来ない実家って一体…

 僕が首をかしげると「沖縄です」簡潔に答えてくれた。

 沖縄。

 大爆発が確認されて以降周辺海域、そして空域すら接近出来なくなっているらしい。

「行けるんですか?」

「ええ。ここで生活するにはまったく役に立たなかった職業のおかげで…『海の民うみんちゅ』という職には海難を抑止し、5人乗り以下の船で行けば1度だけ危機回避出来るらしいので。船も既に買っています」

 ああ、この人は覚悟を決めている。

「……情報料として、こちらをどうぞ」

 僕は結界球(小)を一つ、手渡す。

「御守りです。無事に沖縄に着けるよう。僕も沖縄がどうなっているのかは気になっていたので」

 おじさんは結界球を受け取り、深々と頭を下げた。



「あの結界球にマーカー打てる?」

「問題無いッス。何かあれば確認出来るようにはしているッス」

 タイムさんに確認を取りながらスタジオへと戻る。

「お客さん、なんだったの?」

 せお姉様が僕の方を見る。

「元記者さん。お詫びに来たそうです」

「ふーん」

「実家の沖縄に帰るからその前に…と」

 沖縄、と聞いた瞬間にせお姉様の表情が厳しくなる。

「は?何?死ぬの?最近少し余裕が出来たからって使いを送っているけど、近海で全部消滅しているのよ?」

 あ、シリアス顔だ。

「領域が異界化しているって事ですか?」

 僕の問いにせお姉様は首を横に振る。

「いいえ、アレは異界化よりもタチの悪い代物…破界の檻という忌まわしき結界の可能性が極めて高い」

「結界?」

 異界化では無い結界…

「起動させた種以外の全てが争い合い殺し合う故に破界。そして一度入れば出ることが叶わない故に檻なの」

 なんて物騒な…

「外、もしくは中から強力な力で破れば問題無いけど…外からの場合は中に影響が出るから」

 ああ、それは絶望的だ…

「それに起動させた種がダンジョン由来だった場合、最悪の結果になる」

 全員がその可能性を想像し、顔色を変えた。


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