499話 先手、磯部吼える 後手、圧倒!

 官房長官では無く防衛大臣が会見を開くという異様な記者会見だった。

「───以上、緊急会見を終了致します。質疑の方───そちらの方」

「テレビ日和の古賀です。先程の内容ですと、憲法違反になるのでは無いでしょうか」


「いえ、キチンと手順を踏んで持って来て戴いた場合、受け取りはしますが、審査をし、即不採択にするだけです。

 こちらから巫女様では無く神に今回の件を報告した場合どうなるか…理解出来ない程度なのでしょうか。

 前提がまず間違っており、神々が巫女様を選んでいるのであって我々が決めているわけではないのです。だからそのような嘆願や請願を上げられても意味が無い。

 更に、今この国の半数ほどの退魔防衛は巫女様が担っているのですよ?神々が切り上げると言うのを止めているのに…

 あなた方メディアがやらかした記者会見や冤罪事件を忘れたのですか?結果どれだけの犠牲が出ました?責任は取ったか?直接詫びたか?巫女のせいとは口が裂けても言ってはならないと何故理解が及ばない!?」

「磯部大臣、抑えて抑えて!」

 側にいた報道官が慌てて宥めようとするが、磯部大臣はそれを手で制する。

「いや、これは言わせて欲しい。あの濃密な神気の中、朝3時から夜0時まで神々の食事を作ったりするんだぞ?途中普通に仕事もしている。ここに居る人間の中で、できる奴が要るなら手を挙げろ。

 明日その担ぎ上げられたアイドルとマネージャー、そして社長を現場に連れて行くから貴方がたも来るんだよな?覚悟はしておけよ?機嫌を損ねたら日本の結界含め世界から色々な物が無くなるからな?そうなれば俺等の苦労は水泡に帰し、晴れて地獄の完成だ。

 自身の命どころか家族親戚全員の命すらも消し飛ぶ覚悟で来いよ?今俺等は対人間ではない。対妖魔、対神とやり合ったり交渉している以上、こちらの法を持ち出しても何の役にもたたないということを忘れやすいその頭に叩き込め。

 覚悟のある記者は明日の午後2時に官邸前に来い。その時に選抜試験をしてあのビルに連れて行く。ただ、行ったら覚悟しろよ?普通に神がいるような所だ。言動一つで機嫌を損ね死どころか死後もどうなるか分かったものじゃ無いからな?…次」

 一気にまくし立てた後に一口水を飲む。

 会見の場は静まりかえり、誰一人として質問をしてこない。

 周りを見渡し、嘆息する。

「はっきり言っておくが、俺のことを縁故大臣やらコネ大臣と言っているのは良く分かっている。いきなり総理と副総理から呼ばれてそう言い渡されたから思わず二人とも殴ったよ。

 今どれだけ危うい状態にいるのか、巫女様方に正面から交渉にいけるのが俺だったと言うだけだ。替わってくれる奴が居るのならすぐにでも辞めてやるし、二度と政界なんて面倒な所にも出ない。

 俺達は10年近く巫女様含めトンデモ案件を処理し続けてきた。何度かメディアに流れたはずだがお前さん方、握りつぶしたよな?組織的誘拐事件や宗教団体と近畿・九州組織連合の件とか…

 我が身に直接命の危険が降りかかることに関してはだんまりだったのにそれ以上の問題には危機感が働かないのか?まだあるぞ?この場で言ってやろうか?お前さん方の上も関与していた件とかな!命の恩人の顔に泥を塗りたくって知る権利だなんだという前に自浄してモノを言え!…で、質問は?無ければ明日あちらへ行く車の手配と遺書やら相続書類やら用意したいんだが?…どうぞ」

 最後列の一人がそっと手を挙げた。

「あの、明朝新聞の朝霧と申します…その、神々の前に立つという事はそこまでの覚悟がいるのでしょうか」

「ああ。前提から違う。総理等とともに伺った時、そのフロアに入った時点で俺等の覚悟なんて死の覚悟程度だったと思い知らされる位にはキツい。会う前の時点で立っていられない。あんな中で態と軽口を叩いた副大臣は頭ヤベー奴…失礼、覚悟の上の覚悟を決めていたと感心した位だ。

 終いには伊邪那美命が現れた日には………そっかぁ…また遇うかも知れないのかぁ…」

 一気に顔色が悪くなる磯部大臣。

「……明日来る人間にこれだけは言っておく。伊邪那美命が居るという事は死後も普通にあの方の勢力下に入ることになる。その意味を考えてくれ。つまりは死後、それ以上の目にあう可能性も考慮してくれという覚悟がいるという事だ」

 そこまで言語化され、記者達は改めて前に巫女達の記者会見を担当した記者達の発言に嘘が無かったのだと思い知らされた。


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