390話 移動と激闘
「帰りのことを考えなければもっと早いそうッスからちょっと行ってくるっッスよ」
そう言ってすぐにでも転移しそうなタイムさんを止める。
「ストップ!外に出てから!駐車場から出発して欲しいんだ!」
「えっ?はあ、まあ、良いっすけど…」
タイムさんは首をかしげながらも了承してくれた。
何故止めたのか。
それは周りに動かしたことを知らしめるためであり、ある種のセレモニーだ。
部長お二方と課長が見守る中タイムさんがゲートを開く。
そこから天馬と神兵さんが姿を見せる。
一同がその光景を神々しいモノを見るような目で見ている中、課長がポツリと呟く。
「神兵…まさか…妹さんの騎士か?」
「ええ、一度お目に掛かりましたね」
課長にそう言って微笑みかけると天馬に跨がる。
「じゃあ、失礼するッス」
タイムさんはひょいっと彼女の後ろに正座するように座った。
「ちょ!?大丈夫!?」
慌てる僕に「確り捕まるので問題無いッスよ」とヘラリと笑う。
そして背負っているデイバッグのトップポケットから出ているカメラを確認してGOサインを出した。
「では、行きます」
神兵さんがそう言って天馬に出発を告げ、一瞬だった。
急加速で天へと斜めに飛んでいった。
僕も含め、その場にいた全員がまさかそんなスピードで飛ぶとは思ってなかったため、呆然と見送る。
「───先程少し調べたのですが、サンクロワ大聖堂とはフランスのオルレアンにある大聖堂だそうです。そこからの想像ですが、実家というのはフランスのドンレミ=ラ=ピュセルではないかと…直線距離にしておよそ280~290キロ。
ここから十和田湖周辺まで直線距離でおよそ580キロとすれば…およそ2時間半から3時間で到着すると思われます」
巽さん、そこまで調べて…
「巽さん凄い…」
「であれば2時間半後にみこチャンネルを見れば現状が分かるという事だな」
「何事もなければ」
「飛行機とのニアミスとか…高度がそんなに無ければ…」
あ。と、全員が固まった。
それから大急ぎで関係各所に連絡を入れるのにちょっと時間が掛かってしまった。
「まだか!?って、そりゃあ早々増援は来ないっ!わなぁ!」
大剣を器用に振り回し、男は9度目の自問自答を叫ぶ。
「相応の探索者や部隊が近隣の市に居たとしても車で1時間以上掛かりますから!」
迷彩服を着た青年が聖光を発して周囲に妖魔が来ないよう威嚇する。
「重傷者はまだ生きてるか!?」
「時間の問題ですね!あと30分くらいなら頑張れるそうですよ!」
ひしゃげたワンボックスカーと陸自のトラックをバリケードにしながら医療班の女性がそう答えながら近付いてきた小鬼達目掛けて掃射する。
「自己申告は助かるなぁ!…っらあああっ!」
3メートルほどある泥の巨人をスキルで吹き飛ばし息を吐く。
「死者2名、重傷者7名…動けるのは!?」
「かたっ、片手で足りるくらい、すよぉ!」
まともに戦闘が出来る人間はこの数時間で4人にまで減り、壊滅状態となっていた。
対して妖魔達は泥の巨人1体に小鬼多数、体長2メートルの土蜘蛛2匹が健在という絶望的な状況。
そんな中、
「あっ、見つけたッス」
「では、降下します」
上空からそんな声が聞こえたかと思った直後、
起き上がりこちらへと向かってきていた泥の巨人が上空からのナニカに吹き飛ばされた。
「お手伝い感謝ッス!」
「あとで主様にお駄賃のクッキーを作って貰いますので」
「それよりもケーキッスね!」
「ですね!」
ブワリと光の風が吹き、妖魔達が一斉に後ろに下がった。
「こんちわ~救援部隊ッス!」
陽気な声高らかにその女性はそう言い放った。
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