388話 官邸と了承
SIDE:日本
その情報が入ったのは正午になる前の事だった。
官邸連絡室でもなく、個人スマートフォンに直接入った。
緊急の会議もなく今のうちにと各報告資料を読んでいる中、着信音が鳴り響く。
「───どうした。何かトラブルか?」
何気なくそう言葉を発した十数秒後、まさかあそこまで大事を聞かされ叫ぶとは思ってもみなかった磯部総理だった。
その数時間後、緊急の呼び出しにもかかわらず文句の一つも出ずに政務三役及び与野党の党三役が出席し、緊急会合が開かれる。
議題は、巫女の武力権行使について───
「───とは言え、神々が巫女に与えたというのであれば止めることは出来ないぞ」
「しかしですねぇ、一個人が軍を持つという事は…」
会議が始まって2時間経過。
与野党共に反対派賛成派に分かれたものの、見事に堂々巡りとなっていた。
「他にも召喚スキルを持つ人間はいるぞ?それらに対して縛りを付けるとなると…」
「…協会本部の部長にそういったスキルを持つ者がいたじゃないか。つい最近まで海外を巡らせていた…」
「長谷川部長ですか」
「そう!規制を掛けるというのならばその長谷川君を先に───」
「彼女の部隊は現在国会周辺含め重要箇所を守っておりますよ」
「反乱でも起こされたらどうするんだ!?」
「今はそんな事よりも巫女様の軍についてでしょう!私としては特に問題無いと思いますが、大規模部隊との事なので皆様方をお呼びし急ぎこの場で決を採ろうとしたのです!」
磯部総理は机を叩き声を荒げる。
「規制だ何だと騒げば神々がへそを曲げるぞ?しかも既にそう言ったスキルに対して規制も何も掛けていないんだ。今更そこに規制を掛けようとするととんでもない事に───」
喧々諤々とまったく進まない緊急会議は更に5時間続く。
と、会議室の扉が激しくノックされた。
「何だ?今会議中───」
「失礼します!現在会議中の規制対象とする件に関しての緊急報告です!」
「何だ。どうした?」
「件の特殊スキルを有した52名が集団で出国を…」
「何だと!?」
会議の参加者等はざわめく。
「ここの会議の様子が全て外部に見られており、恩を仇で返されるのであれば優遇策のある他国に行くと…」
『なっ…!?』
「…だから言ったんだよ。今更そこに規制を掛けようとするととんでもない事になるってなぁ…なあ、お前さん方、
この52名がどれだけの戦力かは分からねえが、少なくとも百人以上の戦力をこの下らないやり合いで他国に譲ったんだぜ?このまま更に下らねぇ会議を続けるか?」
浅野副総理がドスの利いた声で言い放つ。
「問題を起こす奴ァ既に起こしている。巫女様はあんなにもお国のためにやっていても邪魔者扱い。わざわざ申請したら今度は規制対象だぁ?オメェ等国会議員であって只人じゃねぇんだぞ!国益を、国民の利益を考えろ!
ここで時間かけて居る間にも自衛隊や殲滅部隊の人間は倒れていっているんだ。巫女様を規制するならテメェ等現地に行って魔物を倒してこいや!」
「っ!?」
その大音声に全員が息を呑む。
「まあまあ浅野さん…話を戻しますが、もう一度手元の資料をご覧下さい。まずは国内の各部隊の医療等支援部隊として回ると書いてあるのです。拒否した場合の部隊損耗率すら考えられない人間はここには居ませんよね?
───結構です。単純にスキル部隊による武力行使を認めるか否かの決を採りたいだけなのです。反対は?」
5名が反対を表明する。
「賛成は?」
反対以外の全員が挙手をする。
「…では、この場にて緊急で可決させていただきます。もし異議があるのであれば速やかに仰ってください。私も解散の手続きを取りますので」
会議内にざわめきが起きる。
「無能な総理がとんでもない事をしたわけですから、あとは無能ではない皆さまがこの国の舵取りをしてください。
そこで今回の件をひっくり返そうが、巫女様を逮捕しようが私は知りません。ただ、粛々と終末まで静かに暮らしますので」
そう言い残し、席を立った。
結局、異議も解散云々もなく巫女の部隊動向を含む武力行使は容認された。
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