377話 裏切りと代償

 変装の必要も無くなったので元の姿に戻る。

 巽さんが残念そうな顔をしてたけど知らない!

 あと、内通者と思しき人物2名が防犯カメラから割り出され、警察に逮捕された。

 一人は借金を肩代わりしてもらう対価として二階の湯茶室側の窓を開けて中へと招き入れた。

 一人は家族を人質に脅されていたそうだけど、その家族はいない。

 つまりはそう言うことだ。

 僕が居なければあの人の家族は───と言うわけですら無い。

 そもそも家族がいないのだ。


「───薬物反応が出たわ。幻覚作用中に催眠暗示でも掛けられたのか、思考誘導を受けたのか…妄想の二次元嫁が現実にいて、その嫁が捕らわれているらしいわ」

 西脇さんが警察が連れて行く直前まで粘って確認した結果がそれだった。

「ええっと、捕らわれているって、何処にですかね?」

「アレトランシア王国の地下牢らしいわ」

『………』

 全員が何も言わずに下を向く。

 いや、確かに誰かを人質にとって云々より手っ取り早いだろうけどさぁ…

「それとね、その嫁って、公称18歳以上の見た目sy「それ以上は言わなくて良いです」…そうよねぇ…」

「アレッスよね…ゲームとかアニメの登場人物が現実にいるとか思ってて、ってやつッスよね?」

 タイムさんがフィラさんに良く分からないといった顔で確認する。

「多分、そうなんじゃないかなぁ…」

 あまり想像したくないのかフィラさんの回答は歯切れが悪い。

「やばすぎないッスか?妄想の嫁と結婚していて、その嫁が捕まっているから…って訳が分からないッス」

「安心して。ここに居る全員が頭抱えているでしょ」

「……そうッスね」


 巽さんのスマートフォンが着信を告げた。

「はい。巽です…はい、やはり…はい。いえ、現物はこちらにあります…はい。しかし、それは…いえ、情報ありがとうございました」

 通話を終えた巽さんは何やら沈痛な顔をしていた。

「張家は全滅していたそうです…四肢を斬り落とされた状態で室内に並べられていたと」

「……妖怪の報復は苛烈だからな。巽はそこの所分かっているだろう?」

 課長がそう返すものの、巽さんの表情は暗い。

「…それで、天狗はそれを持っている者を寄越せといってきているようで…」

「よし、滅ぼすか」

「そッスね」

「それしか無いわね」

 課長、タイムさん、フィラさんが殺意を発しながら頷く。

「いやいやいやいや待ってください。ただ来いといっているだけですよね!?」

「拾っただけなのに何様だ!!」

「天狗様ですよ…それに今暗部を追っている最中なんですから───んっ?」

【せお:行くのなら事前にこの手紙を天狗に渡して】

 せお姉様から手紙が送られてきた。

 それを取り出した瞬間、ブースどころかフロア一帯の空気が固まった。

「あ、これ伊邪那美お母さん直筆だ」

「ひっ、姫さ、姫様…それを早く、しまってください!」

「いや、巽さんがしまって。事前にこれを天狗に渡すようにって」

 ───うん。巽さん顔面蒼白だけど、巽さんが持っていかなくても良いんですよ?


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