376話 情報と暗殺者
「あの少女が居ません!」
ブースに駆け込んできたフィラに課長さんがため息を吐く。
「…だろうな」
「どういう事ですの?」
首をかしげる私に課長さんが解説を始めた。
「この国は犯人を捕まえても即射殺などの行為ない。だから何処まで知っていて、何処まで反応できて、岩崎が何処まで化け物なのか情報収集をしにきたんだろうよ」
「殺す気はなかったって事ッスか?」
「いや、殺す気はあっただろうな。ただ、平和ボケしている日本人だ。殺しもせずに平然と情報をバラすと踏んでいたのさ。高確率で殺さずに情報を持ち帰ることが出来る…あとは、協会内に内通者…いや、そうならざるを得ない者がいるんだろうな」
課長さんが重いため息を吐く。
「では何故みすみす逃すような事を…」
【せお:はいはーい。現在追跡中ですよー】
───えっ?
「姫様?」
「せおお姉様が、追跡中と…」
私は課長さんの顔を見る。
「相手がサブプラン持ちならこちらも…ってな。それに日本人は優しいからな。家まで送り届けないといけないだろう?」
ニヤリと、戦意をむき出しにした笑みを浮かべた。
「神奈川ナンバーの……ですわ」
「至急持ち主の特定を!盗難車の可能性もあるが追跡は可能だろ!」
私達は追跡映像を見ながら確認作業を行っている。
ただ、この映像は配信していません。
それは当然。相手も確認をしているでしょう。
そしてどうやら現在配信はゆるお姉様が千年大宮の件をほじくり返して遊んでいるとの事です。
しかし不思議なことが一つ。
本当に気付かれていないと思っているのかどうか。
「───巽でも課長さんでも構わないのですが、相手を操ったり、乗っ取ったりするスキルというのは存在しますか?扇動以外で」
「…少し特殊ですが、憑依というモノがあります」
巽がゆっくりと口を開く。
「相手に取り憑き、操るスキルですが、これを行うとすぐに使用者が生命力を枯渇させて昏倒するので非常に使い勝手の悪い代物です。
あと、催眠術等のスキルは確認できていません。認識阻害等含めそういった類は条件が厳しく、使い勝手が極めて悪く設定されていると思われます」
「確か憑依は聖職者系には憑くことはできないし、自身より弱いモノにしか憑依できないぞ」
巽の説明に課長さんが補足を入れる。
「───あの子が憑依されていた可能性は?」
「無いな」
課長さんはそう断言し、チラリとタイムを見る。
「そうッスね。自分ずっと見えてましたし、特殊体が取り憑いていれば思い切り見えるんで」
なんて?
「岩崎…悪魔や魔神の類であれば見えるだろう…それにお前さんも霊体なら見えるだろう?」
「…あっ」
そうでしたね。ああ、だから憑依は聖職者系には憑かない、と。
「消去法的に彼女が凄腕の暗殺者で色々対価を払っても情報を得たかった…という事だろうな」
「あとは隠れ蓑を押しつけたかった…?」
「待ってください。隠れ蓑、ですか?」
ああ、そうか。巽は見ていないのでしたね。
「ええ。相手は隠れ蓑を使ってそこまで接近してきたのです」
「……少し、本家含め確認しなければならないかも知れません」
巽の顔色が悪い。
「ああ、それでしたら相手が神奈川県で拝み屋を生業としていた張家を脅し、張家が天狗を騙して隠れ蓑を奪わせたらしいですわ」
「そこまで分かっているのですか!?」
そこまで教えてくれるのですよ。そう、鑑定神の方々ならね…後でお菓子を捧げておこう。
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