361話 報告書と報告

 僕に対する問い合わせが21件ほどあったようですが…笑顔で「個人情報保護の観点からからお応えできかねます」と言ってガチャ切りしたらしい。

 そして僕は電話に出ないよう厳命されている。

 僕は謹慎中のことを報告書形式で書いている。

 異世界に行ったことに関しては神域A地点とぼかす。

 読む人は混乱するだろうけど、そんな事は知らない。

 ………んー……3日目のお夕飯の時間は…

「……えっ?」

「?西脇さん?」

「…ちょっと、えっ?いやこれ本当なの?…いえ、疑っているとかじゃなくてぇ…ぇえー?」

 西脇さんが僕の報告書作成画面を見て困惑している。

 何かおかしな所でもあったかな?

「いやこれ、26時半就寝の5時起きって…無茶苦茶よ!?」

「でも僕最近ずっとこんな感じでしたよ?」

「……いっちゃん。休も?貴方疲れてるのよ」

「謹慎で休んだようなモノですし…」

 有給で休んだから流石に…ねぇ…

「作っている料理の人数換算数量も尋常じゃないし!絶対倒れるわよ!?」

「どうした西脇」

 西脇さんが叫んだため、西脇さんの相棒である宮麻さんがやってきた。

「ちょっとこれを見てよ…」

「んー?人の報告書を見るのは関s…………岩崎、寝ろ」

 ちょっ!?

「あの日だけじゃ無かったのか!神様方も休ませると言っていたのに…」

 頭を抱える宮麻さん。

「あー…言われましたけど、ライフサイクルの中に入っているので」

「「こんなライフサイクルがあるか!」」

「えー?」

 ここにあるぞぉ!



 提出したら報告書を確認した課長が凄く泣きそうな顔をした。

 ちょっと可愛いって思ってしまいました。

 そして速やかに帰るよう言われたんですけど…そのタイミングで巽さんが来た。

「姫様。至急ご報告したいことが───」

「巽。待て!」

「えっ?」

 巽さんは課長に待ったを掛けられ、戸惑う。

「岩崎は今日絶対に休ませる。寝かす」

「ええっと…何かあったのでしょうか」

「この報告書を見てくれ」

 データで送ったのにわざわざプリントアウトしたものを課長は巽さんに手渡す。

 その報告書を読んで…えっ?

「姫様…お辛かったのですね…」

 えっ!?なんでそんな泣きそうに!?

「これは、我々の責任でもある…ブラックな状態に慣れすぎて感覚が麻痺しているんだ…これは、協会の責任でもある…」

 いやいや課長!?

「姫様。休みましょう?私の少し硬い膝で良ければ喜んで膝枕します」

 いやなに言ってるの!?

「そんな事よりも巽さん。何か緊急の…」

「待て待て!岩崎。お前は本当に休め!」

「そうです!休んでください!」

「いやでも…巽さんの持って来た件って、崎口さんの…ですよね?」

「…そうですが、しかし」

「神様案件なので聞きます」

「「…………」」

 課長と巽さんが見つめ合う。

 なんかもの凄いアイコンタクトのやりとりをしている…のかな?

「───分かった。巽、話せ」

「…はい。事故死との報告を受け、念のためと調査した所…彼女の痕跡が無くなっていました」

 痕跡が、ない?

「どういうことです?」

「家は更地に、警察署の事故記録や病院の診断書、住民票、戸籍も彼女の部分だけ無くなっていました」

「…おかしい。それはおかしいですよ。彼女は確かにいたし、あのマンションには入れたという事は悪しきものでは無いはずで───なりすまし、もしくは催眠?」

「催眠等は無いかと思われます。恐らくは善意のなりすましの可能性ですね」

 善意の、なりすまし?

「現在、あの周辺地域にある劇団等を調査させておりますのでもう暫くお待ちください」

 巽さんの言葉に僕は頷くことしか出来なかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る