317話 5day AM~百鬼夜行と国士無双

 異様な光景だった。

 刀を振えば魑魅魍魎が斬り刻まれる。

 刀が駄目になれば全力で投げつけ、即座に新たな刀を取り出す。

 それをおよそ4時間繰り返していた。

 後方から援護射撃をしていた巽率いる中務省の小隊全員が援護をしながらもその異常さに戦慄を覚えるほどだった。

 そしてそれだけ斬り捨てているにもかかわらず、未だ本隊である火車や大天狗などは姿を見せない。

 時折小天狗等は現れてはいるが、ほぼ全てが小鬼や餓鬼クラスである。

「───いるのは分かっているが、舐められたものだな」

 真空刃を発して間合いを稼ぐと水平の構えをし、踏み込むことなく横に薙ぐ。

 周辺の世界に一筋の線が走り、異相が切り裂かれた。

 と、橋の中程に鬼や火車、大天狗が佇んでいた。

「見事、人がその域に達した!」

「然り!ようやった!」

「相を破り我等を見つけるとは…」

「既に数百の兵を切り捨てておるのにまだ動けるとはな!」

「ははは!活きがいいのは良きことよ!」

「食ろうたらさぞや美味かろうに」

 大音声で騒ぐ鬼達。しかし藤岡は刀を納め、息を吐く。

「───そういう事か」

『ぬっ?』

 妖怪達が声を顰め、怪訝な顔をする。

「大妖の残滓という事か…あの人に滅され、力を蓄えるために神が見放したと喜び勇んで彼の君を喰らいに来たと」

『……』

 妖怪達は答えない。

 藤岡は持っていた刀をしまうと別の刀を取り出した。

 その瞬間に妖怪達が動揺する。

「大妖ともあろう者達が何を慌てふためく?私は言ったはずだぞ?ようこそ此岸へ、そして死ね…と」

 闇の中その刀、鞘から抜かれた聖女の祈願刀は淡い光を放っていた。

「破邪一刀、薙」

 左一文字に刀が振られ、先程と同じように世界が斬り裂かれた。

 ただ違うのは此度は妖怪達ごと斬り裂かれ、それらは悉く霧散していった。


 SIDE:巽


「う…そ…」

 私は呆然とした様子でそう呟いた。

 名だたる術者達ですら身を隠し見ないようにして逃げおおせるのが精一杯だった百鬼夜行をまさか撃破するなんて…

 小隊の全員が撃破に沸き立ち、歴史的瞬間を見たとはしゃぐ。

 しかし、藤岡課長が警戒を解いていないことに気付き、銃を構えたままじっと待つ。

「姉様?」

 伊都子が声を掛けてくるが、私は動かない。

 と、何か空気が揺らめいたかと思った瞬間に藤岡課長が刀を正眼に構え、真っ向から斬り裂いた。

 刀身の光が一際強く光り、何かと拮抗するも斬り捨てられる。

 それは鎌鼬だった。

「…奇襲?」

 いや、本当にそうか?

 しかし妖怪が捨て身の奇襲なんて───

「…まさか、まだ終わっていない?」

「えっ?」

 私の呟きに伊都子がギョッとした顔をする。

 そして

「総員緊急撤退!八十禍津日神の御幸だ!繰り返す!八十禍津日神の御幸だ!」

 小隊全員が弾かれたように動き出す。

 神を相手に仕掛けることは流石に無理がある。

「お姉様も撤退を!」

「私は課長を回収してから撤退する!」

 TRG-42 A1を片付け、建物の屋上から駆け下りる。

 何故あれが八十禍津日神だと分かったのか、自分でも分からない。

 しかしアレは間違いなく───

 車に乗り込み、藤岡課長の側に車を着ける。

「乗ってください!アレは無理です!」

「ああ、奴等は御幸の先遣隊として禍事をまき散らし、道を作っていたのか」

 叫ぶ私を無視したまま藤岡課長が呟く。

「祓戸殿に至急連絡を。アレは本当に神なのか確認しろ」

「えっ?」

 藤岡課長の台詞が理解出来ない。

「お前の方が神々と接している期間は長いだろうが。、急いで調べて貰え」

 私は言われるがままマンションへと電話を掛けた。


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