97話 買物~お使い途中の買い食いは美味しい件

 酒屋に行くと店員さんが「もう飲んだのかい!?」と驚いていたけど、今夜のメニュー予定を言うと「それならコーディネートしてあげるよ!」と言ってワインを数本見繕ってくれた。

 そして洋菓子店に行くと…結構繁盛していた。

「凄く甘い匂いがするッス!」

 お客さんが多いから追加で作っているんだろうね。

 店の外から店内を見ると、パンは置いていなかった。

[スコーンも無いなぁ…うーん、少し歩くけどパン屋さんがあるからそこに行こう]

 僕の台詞に二人とも頷き、洋菓子店を素通りした。


 歩くこと9分、商店街を抜けて住宅街に入った所に自宅を一部改装したパン屋があった。

「ここッスか?」

[うん。小さなお店だけど、美味しいんだ]

「師匠が言うなら間違いないッスね!」

 期待を込めた目で店内を見るタイムさんに苦笑しながら扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

 パンを並べ直していた女性が顔を上げた。

 食パンと数点の菓子パンが残っている。

 あ、スフォリアテッラが三個だけある…

 食パン三斤と菓子パンを全部購入する。

「合計8点でお値段は───」

 手早く会計を済まして店を出る。

「なにか、ありましたか?」

[僕を何度も見ていたからちょっと警戒しただけだよ]

「師匠がテレビに出ていた人って気付かれたという事ッスか?」

 タイムが小声で聞いて来たけど、それはないと首を横に振った。

 ただ、あまり宜しくない───悪意や敵意では無いけれども少し妙な気配を感じた。ただそれだけだ。

「───師匠、あの人店の中でキマシタワー!って叫んでるッス」

[………さて、戻りながら休憩できる所があるからちょっと寄ろうか]

 意識を切り替え、少し早足で店を離れた。


 商店街に戻り、途中の細道に入ってすぐの場所に小さな公園があった。

 人気の無いその公園に入って僕はベンチに座る。

 両サイドに座るように促し、先程買ったスフォリアテッラを取り出す。

[はい、一人一個ね]

「えっ?食べても、良いんですか?」

[勿論。そのために買ったんだもん]

 頷く僕にフィラさんは怖ず怖ずと受け取る。

「ありがとうッス!」

 タイムさんは満面の笑みでお礼を言いながら受け取り、すぐさまパクついた。

「ん~~~~!甘くて美味しいっす!」

「…サクサクしていて、甘すぎず、美味しいです」

 対照的ながらも嬉しそうに食べている二人に僕も笑顔になる。

[さて、僕も一口…うん。おいしい]

 サクサク感とオレンジピール入りのクリームがとても良い。

 あっという間に食べ終わり、満足感と物足りなさの混ざった微妙な気持ちになる。

 ───まあ、買い物途中の買い食いだし、こんな物かな。

[さて、二人とも帰ろう?もどって少ししたらおやつの時間だよ。前に買っておいたとっておきのお菓子、皆で食べよう]

「「!?」」

 やっぱり物足りなかったな?食いしん坊さん達め。

 僕は苦笑しながら二人に立つよう促し、家路を急いだ。

 おやつは洋菓子にしようか、和菓子にしようか…せお姉様達が全部食べていなければ良いけど…最悪作るかぁ…


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