75話 TS化した僕は兄のやらかしに息を吐く

「名前良いなぁ…」

 ポツリと呟くリリートゥさんに、あ。と納得する。

「元は精霊だった私達は主である神の指示で世のロクデモナイ男性を始末するために悪霊…今で言う悪魔となりました」

[リリートゥさんはリリートゥという名前ではあるものの、種族名でもある。と?]

「そのようなモノと思っていただければ」

 ロクデモナイ男性…あれ?さっきの僕の対応、やばすぎたのでは?

「あの、私、あんな経験自体ないもので…済みません。それに貴女のお兄様も外見はクールで女泣かせな感じだったんですけど魂はちょっとはっちゃけた聖人で…敗北して倒れているところをトドメも刺さずに「はぁ、これに入って反省しろ」なんて言われたらホイホイ言うこと聞いちゃいますよぉ…」

 こっちの方が(オタ的な意味で)兄さんガチ勢だった!

「───話を戻すが」

 あ、ミツルギ姉様が数々の脱線に耐えきれなくなってきた。

「タイムやコイツのように悪魔、と言うよりも精霊系の場合は契約形式が必要で、タイムとやったような仕事内容と報酬を互いに提示しなければならない」

[名前を考えるだけでは足りないと…]

「いや、それは思っている以上に重要なことだぞ?まあ、それで契約内容の対価が何ランクも下がっているんだが…」

 あまり理解していない僕にミツルギ姉様が少し困った顔をする。

「私からの条件提示なのですが…出来れば、出来ればで良いので…私達の主をこちらで休ませていただけませんか?」

「分かった。許可しよう」

「えっ!?…えっと、良いんですか!?」

許可されると思っていなかったのか、リリートゥさんはミツルギ姉様を見上げる。

「ああ。専用の部屋を用意するのもそこまで手間ではないしな」

[タイムさんに料理の勉強がてら手伝って貰うのであと数人くらいなら大丈夫です]

「…ゆーくんには頼ってばかりだが…頼む」

[はい。頼まれました!あとは、名前ですよね…ネモフィラ、フィラでどうですか?]

「フィラ…ですか」

[ネモフィラの花言葉はたしか、可憐。そして、あなたを許します…などがあります]

「許す…私を…ありがとう、ございます」

 リリートゥさん改めフィラさんはポロポロと涙をこぼし、俯いた。

「まあ、彼女もゆーくんの護衛だ。これで余程のことがない限りは大丈夫…だと良いな…」

[いや充分過ぎません!?]

「世の中には絶対はないぞ?」

[兄さんが公開されているMr.カラテの技を全て会得している可能性より低いと思います]

「……言葉の意味は良く分からないが、うん。君の兄に関する確率はある意味絶対値だから止めて欲しい」

 そこでさっと諦めないで!


「はい!はいはいはーい!」

 突然アディエーナ様が手を挙げて騒ぎ出した。

「お二方だけお姉様とイチャイチャして狡いと思います!私も何か貸与するので見返りは今夜添い寝で!」

 欲望ダダ漏れなアディエーナ様にミツルギ姉様の顔が引きつる。

「───ならお前はどうするんだ?」

「んー…では指定三メートル範囲の時空間操作の力を貸与します!」

[時空間、操作?]

「はい!その名の通りお姉様が指定した空間と時間を操る力です。流石に人の限界を越えた事は出来ないので…死者蘇生や長距離空間転移などは…」

「時間はアレだが、空間操作に関してはゆーくんのお兄さんが聖賢者職の際に得ているはずなのでコツを聞いたらいい」

 ───ん?兄さんが、空間操作を覚えている?

[ミツルギ姉様。兄さんが空間操作を覚えているって本当ですか?]

「聖賢者の固定スキルの一つだ。確実に覚えている」

 ……もしかすると…

 僕は兄さんにメッセージを送る。

【兄さん。もしかして、ここに跳んでこれる?】

 数秒後、僕の斜め後ろにマントが現れ、その中から兄さんが出てきた。

「ん?呼ばれたから来たが…」

[兄さん…ジャイアント〇ボとガオ〇イガー履修済み?]

「ああ。香也君からセットで借りたぞ」

[そっかぁ…週末ちょっとシメに行かなきゃな…]

「用がないなら帰るぞ」

[週末家に帰るね]

「了解だ」

 そう言って兄さんはマントの中に入り、消えた。

 一人二役した挙げ句、空間湾曲できるのかぁ…

 室内の全員が唖然とする中、僕は友人を如何にして懲らしめるか考えていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る