20話 TS化した僕は朝から巻き込まれる

 出勤後、医療班のスタッフブースに着いた瞬間から修羅場がスタートしていた。

 なんか怒声が飛び交っているのは聞こえていたけど、怖ぁ…

 おっかしーなー?普段はこんな事ないのになー?

 まあ、聞こえているのはカウンター…運営課なので探索者が騒いでいるっぽい。

[おはようございます西脇さん。なんの騒ぎですか?]

「あらおはよう。いっちゃんは羨ましいわ。とうとう女の子になったのね!しかも美女!可愛い男の娘系が成長したら…って言いたいけど、少し骨格変わった?ベースいっちゃん+αって感じなんだけど」

[望んでいませんでしたけどね!?あとナチュラルに医療スキルでチェックしないでくださいませんか!?]

「いっちゃんを心配してよ?私もそんな風になりたいわ…でも私としてはいっちゃんがこうなって嬉しいのよ?いっちゃんほど女子力・ママ力の優れた子はいないもの。あと、この騒ぎは協会がとんでもない凄腕の神職者を隠しているって騒ぎなのよ。ダンジョン中層域にちょっと厄介なモノが居るらしくてねぇ」

 西脇のオネェさんがマシンガントークの後に「困ったものよねぇ」とため息を吐く。

[凄腕の神職者?戦闘可能な登録者であれば協力要請が出るはずですよね?]

「ええ。だから非戦闘員か、そんな人はいないかのどちらかだと思うんだけどねぇ」

[非戦闘員の医療系や神職系ってだいたいうちの部署ですよね]

「そうね。あ、ひょっとしたら私かも?」

[西脇さんは高レベルの医師ですけどね]

「残念…しかも原則協会指定区域内でしか職業スキル使っちゃ駄目だし…なかなかお医者さんごっこさせてくれないのよねぇ」

 はぁ、とため息を吐く西脇さんだけど、細マッチョのイケメンお兄さんなので絵になる。

「いっちゃんは新しい職になったって聞いたけど、戦闘系?」

[僕の運動能力を知っての狼藉ですか?泣きますよ?この姿で。ぽろぽろ涙こぼしますよ?]

「それはマジで止めて。私が死んじゃう」

 うわぁ、今まで見た事ないレベルの真顔だ…

 ───こんなやりとりをしながら今朝の作業準備を始めていると、一人の女性が周りを見回しながらやってきた。

「あのぉ…岩崎さんは何時頃出勤されるのでしょうか」

 え?なんて?

「あら、受付の山ちゃんじゃないの。どうしたの?」

 僕が反応する前に西脇さんがその女性に声を掛けた。

「いえ、そのぉ…カウンターで昨日の神職者を出して欲しいって中級乙種数名で構成されているギルドが騒いでいてですね…」

「何故?騒ぎはここまで聞こえていたけど、あの子運動は壊滅的で非戦闘員登録よ?それを無理矢理出した日にはとんでもない問題になるけど?」

「えっと、あくまで可能性の話なので、本人に説明してもらいたいなぁと」

「それをどうにかするのがカウンター業務でしょう?上司は?」

 少し突き放すような口調の西脇さんに女性は少し泣きそうな顔をする。

「それが8時から緊急会議で…」

「呼び出しなさいよ。…まあその間は私が応対しておくから」

 そう言って西脇さんが立ち上がって僕の肩に手を乗せる。

「ちょっと行ってくるわ」

[えっと、なんか、済みません?]

「神職でもなんでも非戦闘員は出さないし、ましてやいっちゃんは私が引くくらいの運動音痴だもの。あちらさん、何か企んでいる可能性あるから私がやるわ」

 ニヤリと笑いながらそう言って西脇さんは僕の肩に置いていた手を頭に乗せる。

「それにかぁいい後輩のサポートは先輩の仕事よ」

 ポンポンと僕の頭を軽く叩いて西脇さんは医療ブースを後にした。

 …大丈夫かな…

 少し不安になる。

 相手の人、もし西脇さんの好みなら壊されてマンツーマンで強制診療されるんだろうなぁ…

 僕はそんな心配をしながらパソコンを立ち上げ、念のために昨日の神域での件を報告書形式で打ち込み始めた。矢先───

 アッーーーー!

 ……カウンター辺りからナニカ聞こえ、

「お一人様私の特別診察室へご招待~さあ、そっちの彼も…掛かってきてくれるんだろうな?協会職員に襲いかかったわけだから分かってるんだろうな!?」

 と、西脇さんの大音声が聞こえた。

 うちの中で触れちゃいけない武闘派三名のうちである意味一番やばい人に喧嘩売ったんだぁ…とちょっと遠い目をしながら打ち込みを開始した。


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