第4話 城の探索

 ひゃあああ、一緒の部屋で眠るのぉぉぉ?

 リデルは、必死で片方の寝台を移動させようとしたが、無駄だった。

 魔法での移動が効かない。少し離れて寝台は置かれているが、なんとも微妙な配置だ。

 

「あー、別に、一緒でいいだろ? どうせ、オレは、お前にさわれないんだし」

 

 言いながら、レヴィンは微妙な表情だ。

 

「あ、あああ、そうでした!」

 

 眠れないかも? リデルは戦々恐々だった。 

 レヴィンは一向にお構いなし、という気配でリデルを城の探索の続きに誘った。

 

「はい! レヴィンさま!」

 

 元気よく応えて、レヴィンについて行く。

 

 リデルは、なんでかレヴィンがすごく好きになっていた。

 終身雇用してもらった恩義もあるけれど、好きすぎてどうしよう?

 どうしてこんなに好きなのか、自分でもよく分からない。努めて冷静、な、つもりだが、直ぐにバレバレになりそうだ。

 

 魔法の力を全然信用してくれないのに、なんでこんなに?

 

「わぁ、すごいですよ! 無事な部屋も結構あります!」

 

 レヴィンが開けた扉を覗き込みながら、リデルは弾んだ声をたてた。

 

 魔法のための工房。魔法書は持ち出せなかったようだ。書棚にギッシリと詰まっている。魔法的なものは部屋から出せない縛りがあるようだ。

 なので残っている無事そうな部屋は、秘密の部屋のたぐいが多い。危険な部屋もありそうだった。

 

「ここも魔法の部屋か? 魔道師でも、品の持ち出しができなかったんだな?」

 

 たくさんの絵画が壁に掛けられている部屋も、魔法部屋の一種だった。高価そうな絵であっても、持ち出されていないらしく、取り外した形跡もなく配置は完璧だ。

 

「はい! ここは、部屋の中でだけ使える魔道具がたくさんあります。絵は外せないですし売り払うことはできませんですねぇ」

 

 きっと一枚ずつの絵が高額で売却できるだろうが、取り外せない。もっとも取り外せるものなら、元の領主が全部売り払ったことだろう。

 

「お前でも使えそうか?」

「はい! レヴィンさまでも使用可能な道具もありますよ!」

 

 終身雇用してもらえたお陰で、色々が良くわかる。魔法に関しては、確かに覚えたものは全て使えそうな感じがしていた。

 

「オレが、魔法を使えるのか?」

 

 レヴィンは驚いた様子だが、冷静な響きの声で訊いてくる。

 

「特に、この部屋限定の魔法は、使えますね」

「どんなものがある?」

「飾られた絵のなかに入って、新たな魔法を習得するとか。絵の中で、宝飾品を探したり、助言を得たり」

 

 リデルは分かる限りのことを伝えた。詳細は実際に使ってみないとなんとも言えない。

 

「それで沢山、絵が飾られているのか」

 

 絵と魔法の関係が腑に落ちたのかレヴィンは頷いて呟いた。

 

「絵の中で手に入れた品は、部屋の外に持ち出せるみたいですよ!」

 

 どんな代物が持ち出せるのかは、挑戦あるのみだ。特に危険はなさそうだった。

 

「お前と一緒に入ることは、できるのか?」

 

 レヴィンは確認するように訊いてくる。ひとりで絵に入ることは危険と考えているのだろうか?

 

「はい。ふたりまで可能なようです」

「じゃあ、今度、売り物が手に入りそうな絵に一緒に入ろうぜ」

 

 レヴィンが使用可能な魔法は、他の部屋にも多くあった。だが、絵画に入る以外は、あまり興味をひかなかったようだ。

 絵のなかで手にはいる品は、何度でも回収可能らしい。見つけられるかが鍵だが、宝飾品も見つかる気配があるし売り物になりそうだった。

 

 

 

 厨房は魔法仕様だった。

 

「わぁぁ、なんて便利な厨房なんでしょう!」

 

 感動に瞳をきらきらさせた後で、リデルは落胆することになる。

 厨房を使うのに必要な魔法をリデルは持っていた。だが調理自体の魔法技術スキルがない。処方、配合表、仕込表……といった調理に必要なレシピも持っていない。

 その辺りは、別途、手に入れねばならない。

 

「困りましたですぅ。調理器具は使いこなせますが、わたし調理スキルや魔法の料理レシピ本、もってないです」

 

 リデルは、しゅんとしてレヴィンに告げた。

 

「あ、ああ、別に構わない。お前が調理する必要はないぞ? 当分は調理された物を買いおこう」

「は、はい。保存はバッチリです。時を止めておけます」

 

 それなら完璧、と、リデルは胸を張った。

 

「ハイカラな言葉を使うんだな、お前……」

 

 スキルとか、レシピとか、といった言葉のことを言っているようだ。

 

「はぁ、お師匠さまが、進歩的なお茶目なかたでして」

 

 リデルは応えながら他の厨房周りの部屋も確認してみた。食材庫もある。が、予想どおり食材はほとんど置かれていない。

 

「厨房横には、氷の部屋までありますね」

「食材は、ほぼ空か……」

 

 使える部屋の発見よりも、レヴィンは不足している品の確認をして溜息まじりだ。

 

「秋の収穫分から、少し前借りしましょうか?」

 

 リデルは提案する。レヴィンが希望すれば、可能だろう。

 

「そんな器用なことができるのか? 秋の収穫が全くなかったら?」

 

 レヴィンは感心した表情と、嫌な予感とを同時に感じたらしき表情だ。

 

「あー、それは、借りられないですね。秋に困窮するほどには前借りできないです」

 

 前借りすることにして取り寄せてみないことには、結果はわからない。

 

「なるほど。じゃあ、前借りできたら、秋の収穫が約束されている、ってことか」

 

 少し落胆ぎみのリデルだったが、レヴィンは逆に考えているようだ。

 

「あ! それは、その通りです! 明日、ちょっと試しましょう」

 

 明日やることが多いけれど、今夜はもう眠気がさしてきている。眠い状態での魔法は危険だ。レヴィンはリデルの疲労を感じとったのか寝台のある部屋へと戻った。

 

「さすがに、疲れたろう? そろそろ寝ようぜ」

 

 そして、さっさと片方の寝台へと潜り込んで背を向ける。

 

「あ、そうですね。おやすみなさいませ、レヴィンさま」

 

 雇い主である領主と同じ部屋で眠るなんて、畏れ多いかも? でも、ちょっと嬉しい。

 リデルは、ちょっといそいそと。レヴィンが背を向けているので、身支度を眠るとき用に魔法で整えつつ寝台へと潜り込む。

 

 こんな豪華な寝台、初めてかも?

 リデルは、心地好さに直ぐに眠りに落ちそうだ。背を向けているレヴィンを、しばらくじっと眺めていたが、あっという間に夢のなかだった。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る