第15話 伝承の中にヒントはある

 私はふと手にした本をじっくり読みました。

 こんなことをしている時間なんて、本当はないはずです。

 ですが何処にヒントが転がっているかは分かりません。

 そんな私が迷わず手にしたこの本は、とある植物の伝承について書かれています。


「豪雨が田を襲い、雷鳴が鳴り響き地表を割る。青の花が咲き誇り、焼けるような痛みを振り撒く。ですか……」


 今、龍舞村に起きている状況と、あまりに酷似していました。

 私は眉根を寄せてしまいますが、ここに書かれているのは古い伝承です。

 こことは違う、もっともっと東にある国のお話です。


「豪雨と雷鳴はおそらく関係が深いはずです。豪雨が発生するということは、雲の流れが生まれる訳ですもんね」


 豪雨を作る水蒸気の粒は同時に雷鳴を起こします。

 私はふと考えます。豪雨と雷鳴の繋がりが深いように、この花にも密接な関係があるのではないでしょうか?


「雷鳴が起こるのも雲があるから。つまりは同時に起きた……とならば、青紫色の花も意味があるはずです。そこさえ掴めれば、きっと糸口は開けるはずです」


 突破口の糸口は見えてきました。

 となればやる事はシンプルです。

 私はもっともっとこの本を読み漁り、少しでも多くの情報と合点のいく部分と相違点を見つけます。


 とりあえず三時間読みましました。

 何度も何度も同じ部分をメモしながら読み進めました。


「ふむふむ。とりあえず分かったことはありますね」


 合点の言った部分。相違点の部分。

 場所や原因などは明確には違えど、とりあえず豪雨と雷鳴が鳴ったタイミング、その数日後に青紫色の花が咲くことが分かります。


 つまり青紫色の花は何の因果もなく咲いたわけではありません。

 豪雨と雷鳴。この二つが重なったことで咲いたのです。

 ですが、一つ分からないことも出ました。


「如何して豪雨と雷鳴が重なったタイミングで、この花は咲いたのでしょうか?」


 あまりも突飛ではありませんか?

 今の今まで、豪雨の日や雷鳴が鳴る日はあったはずです。

 それが突然、唐突に。こんな偶然が重なることがあるでしょうか?

 私はまだ要因がある気がして、じっくり考えます。如何して花が咲いたのか。花が咲くためには何が必要なのか。


「花が咲くためには種が必要ですよね。種が最初から地面の中に……いいえ、それだと時間経過で咲いてしまいますよね。この二つの自然現象が起こしたもの……それが起因して咲かせたのなら、種は何処から?」


 私は怪しんでしまいます。

 すると頭の中にもう一つの天候情報が上がりました。


「風、突風!?」


 雨が降る、雷が鳴る、種を運ぶ、その情報はどれもこれも風に繋がりした。

 確かにこの辺りは風はよく吹きます。

 しかもただの風ではなく、この地形ならではのものです。


 もしもこの青紫色の花が特定の地域でしか咲かないのでしたら、その可能性は極めて高いはずです。

 何故ならこの伝承にも起因しています。

 大きな山のたもと。風が吹いてもおかしくはないですよね?


「そうと決まれば早速探しに行くしかありませんよね」


 私は席を立ちました。

 軽く準備をしようと、服を着替え、靴を履き替え、鞄を肩に掛けて早速向かいます。


「これで準備は大丈夫ですよね」

「大丈夫ではありませんよ」


 そう、意を申し立てる人が居ました。

 私が部屋の扉を見ると、そこにはシュナさんが立っています。

 怒った表情を浮かべ、私を叱ります。


「何をしようとしているんですか!」

「これからフィールドワークに出掛けようかと」

「ダメです。危険です。やめてください」

「えっ?」


 何で怒られるのでしょうか?

 私には全く見当が付かず、シュナさんはそんな私の手を引くと、屋敷の外に出ました。


「良いですか、アクアス様。今からアクアス様が向かおうとしているのは、あの山ですよね?」

「はい、そうですよ」

「尚更ダメです。あの山は危険です。もしも一人で行かれるのでしたら、私が全力で止めます。いいですね」

「それでは如何したら?」

「決まっています」


 シュナさんは胸の前に手を置きました。

 何をしようとしているのか、予想が簡単に付いてしまいます。

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