幻影交錯

その刻、織田軍は未だ毛利と九州連合の嵐の渦中に身を置き、信忠の胸中には微かな焦燥が芽生えていた。彼の目指すは上杉を打ち破り、毛利へと転戦し、包囲網を砕くことにより戦局を自軍に有利に進めることだった。だが、更に煮え繰り返る心を抱いていたのは、急な心根を持つ細川忠興であった。信忠が腰を引けることに痺れを切らし、蒲生氏郷の助言が優遇されていると誤解し、忠興は再び戦を挑むことを提案する。


信忠:「待て、柴田軍の残兵を収集し、敵の様子を見極めるべきだ」

忠興:「我々の手持ちの兵力は敵を上回っているはずだ。すぐさま突撃し、敵を破り、そして九州連合に挑戦するべきだ」

信忠:「無理なものは無理だ」

忠興:「ならば私一人で九州連合に挑む。私なしにも十二分に上杉と戦うことは可能だろう」


信忠は忠興を説得したものの、彼は戦線を去り、毛利の領土へと向かった。


ある程度の時間が過ぎ、さらに信忠を苛立たせる出来事が起こる。織田信忠の軍団に織田信長からの命令書が届く。その内容は、上杉との戦闘を避け、包囲戦に専念するというものであった。


信忠:「父上は一体何を思われているのだ。我々は既に敵の状況を掴んでいる。残存の柴田軍と合流すれば兵力も我らが上回る。それならば全力で攻撃を仕掛け、敵を撃破し、我が軍は毛利と交戦すれば、包囲網は崩れるではないか」


氏郷:「信長様には何かご理由があるはずです。我々はその命令に従うべきです」


信忠:「理解している。しかし、なぜ我々が静かにしていなければならないのか、その理由を知りたいのだ」


氏郷:「信長様の深遠な計画は私たちの理解を超えています。彼は我々とは違う視点、違う次元で物事を捉えていられるのかもしれません」


信忠は疑問を抱きつつも、自身が父親である信長とは比べ物にならないという自己認識があり、その事実が彼の心を苛立たせていた。


上杉軍は北庄城からさらに一乗谷城へと接近していた。その城に何人の兵がいるのか、信忠たちは詳しくは知らない。しかし、信長の指示に従い、彼らは静観を続けていた。


そして、数日後のある朝、信忠たちの眼前には驚くべき光景が広がっていた。上杉軍が一兵もいない城、夜の間に完全に撤退してしまった上杉軍の姿があったのだ。


信忠:「何が起こったというのだ? 上杉軍が一体なぜ撤退したのか?」


氏郷:「私には理解できませんが、おそらくこれは信長様の命令と何かしら関係しているのかもしれません」


二人の顔色は驚きと困惑で曇っていた。


氏郷:「信長様は常に広い視野で戦局を見据えておられます。この上杉軍の撤退には何か深い意図があるのかもしれません」


信忠は戸惑いつつも、信長の意図を信じる覚悟を決める。信長からのさらなる指示は、城が陥落するようなら対応せよ、敵が退却したら追撃せず、織田軍の中国勢力と合流せよ、というものであった。


信忠:「まさか父上が何か秘策を用意していたということか。私たちは父上の指令に従い、再び中国方面に向かおう」


氏郷も同様に意気込みを見せる。


信忠と彼の配下たちは、上杉軍の意外な撤退を認識しつつも、信長の計画に従い行動を決定しました。信長の深い策略が何であるのか、まだ彼らには判然とせず、予期せぬ展開が未来の戦局にどのような影響を及ぼすのか、全てはまだ霧の中でした。しかし、彼らの胸には不確定な未来への期待と緊張が、一筋の光となって走りました。


- 夢想瑞歌 -


「はるかなる 遠き空にたなびきたる

雲を龍と 人は言うなり」

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