ゴーストライター
ボウガ
第1話
ある作家、ゴーストライターとして成功するが、名前は世間に広まらず、悶々とした日々を過ごす。彼の名声は影に隠れ、しかしそれでも、仕方がないと自分を納得させている。
彼はいい作品をかくが、しかし一方で、欠点もあった。ほかの作家や、担当はいう。
「あいつは他者にインスピレーションを与えるし、もう少しのところまで優れたプロットをつくるというのに、最後は自分ではしあげない、人の才能を引き出す意味では天才だろうが、本人の才能はそこまでだ」
「そうだ、どうしても最後は人の手が必要になる、ああでなければ、ずっとゴーストライターである必要もないだろうに」
本人もそれは重々承知だ。だがわかっていても変えられない事もある。なぜだか他人があとひとつ簡単な手をくわえれば“優れた作品”となるプロット、アイデア、小説をかくが、その“最後の簡単な一手”こそを思いつかず、最後は人を、編集や作家を頼ることになる、なので彼はいつまでたってもゴーストライターなのだ。どうがんばっても“最後の一手”は思いつかない。体がふるえ、何かが盲点となり、頭がそれを否定するのだ。それを医者にみせても、友人に相談しても治ることはなかった。
彼らはいう
“君の性格のせいだ”
“私はその気弱さが好きよ”
“病気ではないね”
彼も彼でそれになれて、諦めかけていた。なぜなら彼がこの能力をえたのも、“悪魔との契約”によるものだったのだから。
彼はかつての契約を悔やんでいた。
「俺に本物の能力をくれ、稼ぎがなくても、名誉がなくてもかまわない、魂でもなんでもくれてやる、一度の人生にかけるんだ」
「本当にそれでいいのか?」
「ああ、俺は“優れた作家になるんだ”」
そして、彼は10代、まだ高校生のうちに作家になった。だがそれは望まぬ形、ゴーストライターとして。
悪魔はいう。
「だからいったのに、実際の契約なんかで、かっこつけや理想なんて語る奴は“本物”になんてなれないよって」
彼は悔やみながらも、反省もあった。悪魔との契約の失敗ではなく、契約そのものについてだ。
“むしろ、他人が一工夫すれば完成するところまで自分が何不自由なく完成させられることの方が怖い、自分で達成したといいより、悪魔の考えを模倣しているだけなのだから、本当に優れた作家というのは、成果がどんなものであれ、自分の考えで苦しみ、考えぬき、自分の作品を成立させたもののことだ”
彼は、その意味で、“本当の作家”にはいつまでもなれず、世の人々をうらやみ続けるのだった。
ゴーストライター ボウガ @yumieimaru
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