初めての料理

 初めての炊事を行った。


「へえ」


 近未来のキッチンは、ハイテク過ぎて逆に不便だった。

 例えば、コンロはIHとかではなく、耐熱用の台が設置されてる。

 どういう訳かというと、みんなが知ってる鍋があり、その鍋にタイマーやらボタンが付いており、料理する仕組みとなっている。


 フライパンはグリップに操作パネルが付いている。

 スライドカバーが付いており、これで誤作動を防止するようだ。


 水はタッチすると出てくるし、換気扇は自動対応。

 冷蔵庫はタッチ。――この辺はボクの世界にもあるか。


 あまりにもテクノロジーが発展しすぎて、ボクは膝を突いた。


「駄目だぁ。分からないよぉ。分からねえ。どうしちゃったんだよ、人類。アナログの方がいいって!」

「何を騒いでる」


 振り返ると、後ろにはイオさんが立っていた。


「あぁ、イオさん。ご飯作ろうと思ったんですけど。全然分からなくてぇ」


 言葉にしなくても分かる。

 期待外れ、という目で見てきた。


「はぁ……。何を作りたいんだ」

「え、と。卵掛けごはんを……」


 焦り過ぎて、バカな回答をしてしまった。

 卵掛けるだけなのに、キッチンに立たなくてもいいだろう。

 というか、二人に質素な食事を準備するところだった。


「緑のボタンを押せば、たいていはスイッチが入る。ほら。マークだって描いてるだろう」

「あ、ほんとだぁ」

「適当でいいか」


 棚からマカロニを出して、鍋にぶっこむ。

 それから水を入れて、塩を一つまみ分入れる。

 で、緑色のスイッチを入れると、台の上に置いた。


 冷蔵庫の一番下から、玉ねぎを取ると、イオさんが渡してくる。


「え?」

「切れ」


 正直に言おう。

 元の世界で、ボクはこんな感じだった。


『早く作れやババア!』

『お母さんになんて口を利くんだ!』

『あっは。知らねぇ~。バーカ。あー、腹すいたわぁ』


 駄目だ。

 処刑したくなる思い出しか出てこない。

 しかも、ボクがいなくなったことで、両親の肩の荷が軽くなるだろうという予想しか出てこない。


「くっ。玉ねぎかぁ」

「……おい」


 まずは皮を剥いて、渡された包丁を握る。

 プルプルと震える手を押さえ、「ふぅ」と息を整える。

 どこから切ればいいか分からないが、とりあえず尖がってる部分から切り落とそう。


 まな板は使わずに、カウンターの台でゴリュゴリュと切り始める。

 その時だった。


「……料理の経験は?」

「久々っていうか。まあ、賞を受賞したレベルはあるんですけど」


 ゲームでな。


「待て」


 イオさんに後ろから抱きしめられるようにして、包丁を持たれる。

 そして、もう片方の手を玉ねぎの根っこあたりに持っていかれる。


「丸いから。爪立てた方がやりやすいぞ。猫の手だ。分かるだろ」

「ふぅ、……ふぅ、……は、はい」


 汗だくになり、ゴリュゴリュと玉ねぎを切っていく。


「目が染みるぅ」

「閉じるな。首折るぞ」

「……罰が処刑しかないんですが」


 口調と言葉の内容は肝が冷える怖さなのに、イオさんは意外と優しい手つきでボクの手を支え、ゆっくり教えてくれる。


「別に綺麗じゃなくていいんだから。こんなもの食えるサイズに切ればいいんだよ」


 ああ。こういう几帳面じゃない感じが救われる。

 料理初心者なのに、ズケズケ物言われたら心折れるわ。


「何で手を離すんだ。腹にもう一発食らいたいか?」


 いや、ズケズケ言われる方がよくね?

 ていうか、スパルタじゃね?


 何か、イオさんが教官みたいになってる気がした。

 一生懸命に料理へ励むボクだったが、気づけば、かなりイオさんが密着していた。


 柔らかい感触が背中に伝わり、顔をずらすと、目の前には桃色の薄い唇。目線を持ち上げると、殺意の宿った眼光がそこにあった。


「ひっ」

「目を離すなって言っただろ」

「ご、ごご、ごめんなさい」


 料理は続く。

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