第108話 おまけSS⑥ 紗哩(シャーリー)の憂鬱③

「くそ! やられた! 罠だ!」


 俺は叫んだ。

 ここはダンジョン地下一階の玄室。

 ダンジョンと言ってもB級ダンジョンで、はっきり言って俺達パーティのレベル的にはまったく問題ないはずだった。

 だが、今。


「お兄ちゃん、だめ! このドア、開かないよ!」


 紗哩シャーリーが焦った声で言う。

 今俺達がいるのは、1辺5メートルほどの正方形の玄室だ。

 ダンジョンの玄室としては狭い方だな。

 特にモンスターの姿は見えない。

 だけど、俺はやばいことになった、と思っていた。


 そもそも、このダンジョンにはいつものメンバーで半分お遊びで潜ったのだ。

 実際俺とアニエスさんはSSS級探索者だし、ローラさんもこないだSSS級探索者として認められた。

 紗哩シャーリーもS級、みっしーだってA級。

 このメンバーでB級ダンジョンの地下一階なんて、正直言ってちょっとしたキャンプくらいの気持ちで潜ったのだ。


 ところが。


 何気なく入った玄室。

 俺と紗哩シャーリーが何も考えずに入った途端に、俺達の背後で勝手にドアがバタンと閉まり――。


 そして、俺達は閉じ込められちまったのだった。


「マネーインジェクション! セット! 100万円!」


 自分に注射器をぶっ刺し、ドアを蹴破ろうと思いっきりキックしてみる。


「まじか……」


 ドアはビクともしなかった。

 100万円でもだめか、正直俺、金銭感覚は変わってないからこんなB級ダンジョンの地下一階でこれ以上高額のマネーインジェクションなんてやりたかないぞ。

 税理士の先生にも怒られるし……。


「お兄ちゃん……魔法で視てみたけど、隠し出口とかもないみたい……」


 不安そうな顔で紗哩シャーリーが言う。


 くそ。


 なにがどうなってるんだ!?

 ん?

 ドアの脇に、なにか看板みたいプレートが掲げられているな……。

 なんて書いてあるんだ?

 えーと……。


【〇〇しないと出られない部屋】


 〇〇の部分は薄汚れていてよく見えなかった。


     ★


「くっくっく……これは面白いよね……」


 ローラがにやにやしながらモニターを見ている。

 そこに映し出されているのは基樹と紗哩シャーリーの姿。

 二人の身につけているボディカメラの映像だ。

 ちなみにセンシティブな映像になる可能性があるので配信はしていない。


「ねー、ちょっとこれはさすがに悪趣味なんじゃない?」


 みっしーが言うと、それを遮るようにアニエスが言った。


「だめ。このくらいやらないと。紗哩シャーリーのギャンブル中毒をやめさせるには、それ以上のドキドキが必要。男もだめ、酒もだめ、ならやはりブラコンを極めてもらう」


 つまりこれは、この三人による悪巧みなのであった。


「でもさ、基樹さんでも蹴破れ無いドアとか、よく作れたね……」

「そこは我がパーティメンバーの力。彼もSSS級探索者。このくらいはできる」


 そこに黒人のガタイのいい男がいた。

 ジェームズ・パターソン。

 アニエスのもともとのパーティメンバーだった。

 テレポートの魔法によってハワイ沖にとばされ、救助されたのだ。

 今は探索者を半ば引退し、日本には観光でやってきていた。


「まあねえ……そうは言っても貴重なアイテムをいくつも使ってなんとか厳重に作ってはみたんだよ。言っとくけど、これ以上のマネーインジェクションを食らったら多分ドア壊れるからね」

「大丈夫。基樹、ケチ。納豆の余ったからしを捨てないでシューマイにつけて食うくらいケチ。B級ダンジョンではきっとこれ以上は使わない」


 長らくの貧乏生活で身につけた習慣をケチ呼ばわりされるのは少々基樹には酷と思われたが、アニエスは基樹のそんなところも好ましく思っていたので自分が悪口を言ったとは気がついていない。


「で、あの部屋を出る条件ってなんなの?」


 みっしーが聞くとジェームズは答えた。


「それはね、お互いが兄妹愛を確かめ、ハグしてお互いに大好きだということさ」

「それだけ〜? うーん、まあそのくらいならあの二人仲良いし、すぐにクリアしちゃうと思うけど」

「それでいい。自分が一番好きなのは兄。それ、確かめる。Shirleyの脳細胞を一番幸せにするのは兄の愛。それ、あらためて気づかせる」

 

 それでもまだみっしーは納得していないようすで、


「まあ別に兄妹でハグするだけなら害がないからいいけどさ。そういう魔法もあるんだねー」


 言われて、ジェームズは胸を張ってみっしーにプレートを見せた。


「そうさ。魔法にはいろんな可能性があるんだ。ほら、これを観てごらん。これはこないだ変態のお金持ちに依頼されて作ったやつだ」


 見ると、そのプレートにはこう書いてあった。


『兄妹でハグしあってお互いを永遠に愛すると宣言しないと出られない部屋』


「ん?」

「ん?」

「ん?」


 三人、顔を見合わせる。


「あ、しまった! 取り違えて設置してしまったぞ!!!!」


     ★


 俺は、プレートの汚れている部分を袖で拭き取った。

 なにか飲み物をこぼしたあとみたいで、すぐにとれた。

 そこにはこう書いてあった。


『性行為をしないと出られない部屋』



――――――――――――――――――


さて、今は別のダンジョン配信の連載をしております!

こちらもぜひぜひよろしくお願い申し上げます!

伏線は全部回収してきっちり終わらせますよ!


迷宮、地下十五階にて。~レアスキル『刀身ガチャ』で生き残れ! 遭難した女子小学生を救い出し、死んだ恋人の魂を探し出せ!~

https://kakuyomu.jp/works/16818093078031742791

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