第102話 エピローグ

 いやーすごい群衆の数だ。

 俺たちは新潟駅前の待機所でバンに乗って窓から外を眺めていた。

 駅前から市の中心部に向かって走る主要道路は自動車通行止めされている。

 なんのためかって?

 俺たちの勝利パレードのためだよ!


 恥ずかしっ!!!


 なんか地域のためとかなんとか言われて市長に頭下げられたのでしぶしぶ受けたのだ。

 紗哩シャーリーとみっしーはノリノリだったけど。

 うわー恥ずかしすぎねぇか?


「では、今からあの車に乗って駅前を出発し東大通から萬代橋を渡って柾谷小路までパレードいたしますのでご用意を」


 市役所の人が俺たちを案内する。


「ひゃー! オープンカーかっこいい!」


 みっしーがテンション高くはしゃいでいる。

 ローラはいつもどおりひょうひょうとしていて細長い黒糖のパン菓子を口にくわえている。

 アニエスさんは……。


「うう……恥ずかしい……、私、人に見られるの、無理」


 帽子にマスクにサングラスをかけ、俺に隠れるようにして縮こまっている。

 あ、いつも顔を隠しているのはニンジャとしてのプロ意識とかじゃなくてそういう理由だったのか。

 まったく、そのせいでピンチになったんだぞ。


「じゃ、お兄ちゃん、みんな、行こっ!」


 紗哩シャーリーに引っ張られるようにして、俺たちはオープンカーに乗り込んだ。


 ……あ、これ俺も恥ずかしいわ。


 ついこないだまで借金にあえぐ貧乏兄妹だった俺たちが、今やみんなに拍手で迎えられて大通りをパレードするなんて。

 俺たちをのせたオープンカーが走り出す。


「キャーーッッ!!」


 女子たちの悲鳴が聞こえ、家族連れたちやいろんな人たちが笑顔で俺たちに拍手を送っている。


〈お兄ちゃん、なんか照れてるよな、顔真っ赤だぞ〉

〈みっしーはさすが日本一の配信者、堂々としたもんだな〉

〈アニエス、ちっちゃくなっててかわいい〉

〈シャリちゃん、にっこにこの笑顔でこっちもうれしくなるな〉

〈ローラが食ってるあのおかし何? うまそう〉

〈ポッポ焼き。うまいぞ〉

〈ほんとよかったなあ。ほんとよかった。みんなのおかげだ〉


 ほんとは俺たち兄妹は、死にに行ったんだった。

 借金のせいで絶望にまみれて、もう死ぬしかないって。

 みっしーの顔を見る。

 白い肌、艶やかなショートボブの黒髪、輝く笑顔。

 この子が死にかけたおかげで、みんな生き残れた。

 人間万事塞翁が馬っていうけどさ。

 人生、生きていればなにがどうなって運命が転がるかわからんもんだなあ。


「うう……人が怖い……」


 俺のズボンをぎゅっと握って身を硬くしているアニエスさん。

 なんか、うん、かわいいじゃん。

 ローラさんは食べかけのポッポ焼きのはじっこを、肩にのせたちっちゃいスライムに食べさせる。

 モンスターと人間との友好関係の研究のためにという名目で地上に連れていくことを許されたのだ。

 ので、定期的に大学の研究室に行く予定になっている。


 お?


 高校時代の同級生たちもいるな。

 なんか久しぶりだ。

 めっちゃいい笑顔で手を振ってくるから、俺も振り返した。

 うん。

 結局みんなうまくいってよかったなあ。

 とりあえず、明日は税理士の先生と税金の相談をしなきゃな。


「えへへ、お兄ちゃん!」


 紗哩シャーリーが俺に抱き着いてくる。

 俺は妹のサイドテールの頭をなでてやると、二人でまた群衆に手を振った。


     ★


 さて、俺たちは、SSSSS級モンスターとの決戦に備えて、伝説の剣を取りに来た。

 きっちりとしたスーツを着た、黒髪ロングストレートのめっちゃ美人な女性。彼女こそが、俺たちにとって伝説の剣となる。

 女性は俺たち五人に名刺を渡して言った。


「税理士の御堂と申します。よろしくお願いします」

「あ、お願いします」


 そう、POLOLIVEの社長の紹介で、日本で一番腕がいいと言われている伝説の税理士と契約をかわしたのだ。

 SSSSS級モンスター、国税庁と戦うための、まさに聖剣だった。


 聖剣が言った。いや違った、税理士の先生が言った。


「で、さっそくですが、七宮さん、それにみなさん」

「はい」

「ずっと配信を見ておりました。ファンです。握手と写真いいですか?」


 おっとクール系かと思ったらそうでもないのかな?


「あ、別にいいですよーみんなで並ぼうぜ」

「ありがとうございます! じゃあまずみなさんだけの写真いいですか? 並んで横を向いてください」

「横?」

「あ、女性陣はちゃんと髪をかきあげてくださいね。耳がよく撮れるように」


 そしてyPhoneを取り出して写真を撮る税理士先生。


「……ふぅ……みなさんの耳はやっぱりかわいいですねぇ」


 ……もしかして、ひょっとして、この先生……。

 まあいいけど、ちゃんと節税のご指導お願いしますよ。


                                  〈了〉




――――――――――――――――――――――――

お読みいただき、本当にありがとうございました!

おまけのSS(ショートストーリー)があります!

ぜひこのまま続けて読んでいってください!


さて、こないだ別のダンジョン配信を書きあげました!

終盤、怒涛の伏線回収!

自信作です!

よろしくお願いします!!!!!


【完結】迷宮、地下十五階にて。


https://kakuyomu.jp/works/16818093078031742791








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