第91話 こうげき!
「あ、そうそう、その話ね、あたしねー、混乱の魔法にかかっちゃってもう大変で! なんか変なこと言っちゃったからごめんね、お兄ちゃん、あんなこと全然思ってないよ!」
だけどみっしーは、はっきりとした口調で言う。
「ううん。私は少し、思ってた。私は基樹さんたちに助けてもらって今こうして生きているから、私が言うことじゃないのはわかるんだけど。でも、ずっともやもやしていた」
スライムがぴょこぴょこついてきている。
そのスライムを撫でながら、ローラが聞いた。
「ふーん、なにが?」
「
「うん、その偶然がみっしーの命を救ったんだからラッキーじゃん、いいじゃん」
とローラがあっけらかんと言う。
「わかってる。そうだよね、そのおかげで私が助かったんだもんね……」
一番前を歩いていたアニエスさんがふりむきもせずに言った。
「ま、それで一番ラッキーだったのはモトキとShirleyだ。逆に言うと、お前たち兄妹、みっしーがいなかったら今頃死んでた。地下八階で無様に食われて死んでた。だから、お互い様だ。あはは、モトキ、お前がみっしーにお礼いっとけ。じゃなかったらモトキも
言われてみればそうだなあ。
確かに、預金残高十万そこそこの状態だったら、地下八階で死んでた。
国民的人気配信者みっしーと出会って、その人気にあやかったスパチャがあってこそ、今俺たちは生きている。
「そう、死んでたんだよ? 基樹さんも、
「あー、ねー、うん、そうなんだけどお兄ちゃんも別にあたしを殺そうとしたわけじゃないから、あたしが一人で死のうと思ったところにお兄ちゃんがね、あたしと一緒に死んでくれるっていってくれたから、借金つくったのもあたしが悪いんだし、ほら、お兄ちゃんに強くなってもらいたいってのはあたしの欲だし……」
「そうだよ、
みっしーが大きな声で言った。
「私はね、こういっちゃなんだけど、自分のこと大切に思っているよ。自分のこと大事な存在だって思ってる。それは、お父さんとお母さんにかわいがって育ててもらって、宇佐田社長……うさちゃん社長と出会って配信者としても成功して、お金もあって、愛情ももらって、だからいえることだってのはわかるの。
でもね、恵まれてるからこそ自分は大切な存在で、そう思うのは自然で当たり前のことだって気づいただけで、ほんとはきづいていないだけでみんなそうだと思うの」
みっしーはそこでぴたりと歩く足を止め、まっすぐ俺を見た。
「基樹さん、基樹さんは自分を大切で大事だと思ってる?」
「いや……まあ、ほら俺がいないと
「
「…………」
正直、そうなったら特に、ないなあ。
「自分だよ! まず自分を大切にしてあげてよ! 基樹さんの闘いみて思った、死ぬのを全然こわがってない、死に場所探してるみたい」
「いやあ、専業の探索者ってみんなそんなもんだよー」
ローラがのんきに言う。
「そうだとしても! 私は基樹さんに自分を大事にしてもらいたいの。このダンジョンはきっと私たち、攻略できる。基樹さんが攻略してくれる。それで地上にもどったあと、それぞれの生活に戻って……でも私はずっと不安だと思うんだ」
「なにがさ?」
「なんかこう、すごい困難なことにぶつかったら、基樹さんと
と、そこに。
アニエスさんが鋭い声を出した。
「敵だ!」
見ると、ダンジョンの奥の方から邪悪なオーラを放ちつつ異形の怪物がこちらへとやってくる。
巨大なドラゴン……?
全長でいうと十メートル以上はあるだろうか、とんでもなくでかい。
いや、ドラゴンというよりも、竜、か?
それも、首が9つに分かれていて、その九つの首がすべてこちらをにらんでいる。
〈ヒュドラだ!〉
〈もういうまでもないけどSSS級〉
〈もはや伝説級のモンスターしかでてこない〉
〈こっちの感覚が麻痺してくるわ〉
「インジェクターオン! 残高オープン! gaagle adsense!」
[ゲンザイノシュウエキ:283,425,200エン]
二億八千万円。
もう俺たちの探索は全世界のニュースになっていて、なにもしていなくてもどんどんスパチャが入ってきている。
「モトキ、私に注射しろ、……3500万円でいい」
アニエスさんがいう。
「あとはまかせろ。おまえたちはきちんと話し合っておけ」
〈あとはまかせろって・・・? いや待ってSSS級モンスターだぞ?〉
〈普通ならSSS級ダンジョンのラスボスなんですけど……〉
〈ひとりでやるつもりか?〉
だけどアニエスさんはとんでもないスピードでジャンプすると、天井をさかさまに走っていく。
アニエスさんのこうげき!
クリティカル!
ヒュドラの首をはねた!
ヒュドラのこうげき!
アニエスさんはひらりと攻撃をかわした!
そんな戦闘をみながら、みっしーは続ける。
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