第90話 生臭い
賢者の石だって!?
こんな石ころが?
まじかー。
超希少なスーパーアイテム、賢者の石。
俺だって知っている。
ありとあらゆる物――物体だけじゃない、精神体にまでさまざまな影響を与えることができるという、強大で膨大な魔力の塊。
世界の秘宝だ。
それを手に入れたってわけか。
さすがSSS級モンスターだな、とんでもないものをドロップした。
これ、今回の探索で一番の大物アイテムだぞ。
「賢者の石って物理には弱いから取り扱い注意だからね」
ローラがそういう。
「じゃあ大事にもってなくちゃね」
「うん、逆に言うと、これをすりつぶして粉にしてね、モーリュの薬草っていうこれも希少アイテムなんだけど、それと合わせるとエリクサーができるってわけ」
「エリクサーってあれか、どんな状態異常でも即座に治して体力やケガも完全回復させるっていう、最強の治癒アイテムだよな。高級車数台買えるくらいの値段するから俺なんか見たこともないけどな」
「そうそう。あとはモーリュの薬草をゲットしたいねー」
みっしーが透明なままでローラに尋ねる。
「モーリュの薬草ってどんなの?」
「うん、まあ見た目は普通の薬草なんだけど。単体ですりつぶして摂取するとあらゆる毒に効くんだよ。えっと、そうだね、さっき地下十二階でカミツキガメのモンスターがドロップした薬草出してみてよ」
「うん、これだよね」
「うん、ほら、普通の薬草はね、ここのところの葉っぱが五枚なんだよ。ところがモーリュの薬草は7枚あるの。普通の薬草とそっくりなんだよねー。ほら、この普通の薬草は5枚でしょ? ……ん? えーと、1、2、3、4、5、6……7。……ん?」
ローラはカミツキガメがドロップした薬草をひっくり返したり匂いを嗅いだりしていたが。
しばらくして、
「あ、これモーリュだわ」
と言った。
「なんじゃそりゃー!!」
いやいやいや、いやまあ俺ももともとA級だし、
ぱっと見普通の薬草だしさ。
へー、聞いたことはあるけどこれがモーリュなんだな。
まさか、さっき手に入れてたとは。
「いやさー、私もおかしいなとは思ったんだよね―、あのカミツキガメ、私を食ったぐらいだから最低でもSS級以上のモンスターだと思うんだけどさー、それがただの薬草をドロップするかなあ、とは思ってたんだよ」
ローラが呆れたようにいう。
「ごめんごめん、だってあたしそういうのからっきしだし、わかんなかった」
「……恥ずかしながら俺もきづかなかった」
「ま、このくらいの分量あれば、作れるよ」
「なにを?」
「エリクサー。一回分だけだけど。モーリュの薬草が一束と、賢者の石、これは爪の先くらいあればいいからそれをすりつぶして少量の水入れて煮込む」
★
うげえ。
くっせー。
エリクサー、すごい臭いがする。
普通に臭い。
なんだろこれは、くさやよりもひどい。
古いつくりの公衆便所みたいな臭いがする。
混ぜて煮詰めたらスプーンひとさじ分くらいのエリクサーができた。
これがありとあらゆる状態異常を治す世界最強のポーションか。
くっさい……。
「……これを、飲むのか?」
俺が聞くと、ローラは、
「うん、飲んでもいいし、粘膜に刷り込んでもいいし。じゃ、ほら、モトキ、アニエスの粘膜にこれをすりこんで」
エリクサーをスプーンに乗せて俺に渡すローラ。
目の前には石化しているアニエスさん。
「ね、粘膜って……」
ローラはにやりと笑って、
「お股とか?」
次の瞬間、ちょうどそういうタイミングだったのかアニエスさんが石化から戻って飛び起き、
「モトキ、そんなくさいもの私の股にすりこむな。股がくさくなったらどうする」
怒ったような顔で言った。ローラが意地悪に笑って、
「あれ、アニエスって臭くないんだ」
「臭くないっ! ……多分。……多分。……そう、だと思うが……。モトキ、お前、私のパートナー。ちょっと嗅いで確かめてみるか?」
「あほかいっ!」
俺は経験ないからさっぱりわからんなー。
女の子ってどういう匂いがするの?
そんな俺の顔を見て考えていることがわかったのか、みっしーは、
「基樹さん、今スケベなこと想像したでしょ……」
そりゃそうだろ、今の会話の流れでスケベなこと想像しない二十代男性がいるってならここに連れて来い。
「いいから、モトキ、はやくそれを私に飲ませろ」
アニエスさんが口をあーんと開ける。
俺はその口の中にスプーンをすべりこませた。
……いや、自分で受け取って飲んでくれよ……。
「あ、味はわりあいおいしい……甘い……けど、生臭い……」
アニエスさんは口の中で味わってエリクサーを飲み込んだ。
これで。
中途半端な石化状態は解除されたはずだ。
俺たちの戦力は世界最強のニンジャが完全復活して、万全なものとなったのだ。
「よし、このまま地下十四階へ行くぞ」
俺たちは下層へと続くシュートを見つけ出し、地下十四階に到達した。
ついに、ここまでたどりついた。
ラスボスがいる地下十五階まであと少しだ。
いよいよ、この探索も終わりが見えてきたぞ。
「ところでね、基樹さん、私、もやもやしてたのは本当なの」
このころには不可視化が解除されていたみっしーが歩きながら言った。
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