第89話 ただの石ころ
ローラがデュラハン二体相手に戦っている。
SS級の武闘家に二千万円のマネーインジェクション。
その強さと速さは圧倒的だった。
音速を超えるスピードで距離をつめ蹴りを放つローラの攻撃を、デュラハンは受けきることができない。
だが、デュラハンもさすがSSS級モンスターだ、抱えた首は魔法の詠唱を行い、その攻撃がローラを襲う。
ローラはそれを超反応でかわすが、デュラハンは二体いるのだ、かわした先にもさらに攻撃魔法が放たれる。
少し離れたところから
ローラのスピードが速すぎて遠距離からでは同士討ちになりそうで狙えないようだ。
くそ、はやく俺の身体が回復してくれれば、俺が助けにいってやれるのに。
なにしろ心臓を破壊されて右腕を切断されたのだ、半ヴァンパイアでマネーインジェクションをしているといってもすぐには戦闘できるほどにリカバリーできない。
頼む、ローラ、俺が助けにいくまでやられるなよ。
ん?
そういえば、みっしーはどこにいったんだ?
姿が見えないけど……?
と、ローラの飛び蹴りが男の抱えている女の首にヒットした。
だがひるむのは女の身体の方で、男の身体の方はそのまま的確にローラへの攻撃を行う。
なるほど、お互いの首を持っているとこういうメリットもあるわけか。
女の身体の方はローラの関節技であちこちの足首は折れ、肘は逆方向に曲がっている。
男の身体の方も、ローラの打撃のダメージが入っている。
だけど、なにしろSSS級相手に一対二なのだ、打撃の攻撃と魔法の攻撃、四方向からに気を使わなければならない。
マネーインジェクションはそこまで防御力を高めないから、一撃でももらったら形勢逆転だろう。
はやく、はやく俺の身体が回復すれば……!
だが、間に合わない。
女の首が唱えた魔法が、ローラの右足に直撃して燃やした。
「くそっ」
ローラがその場に倒れこむ。
女の首を持った男の身体が剣を大きく振りかぶったその時。
何もないはずの空間に、突如巨大な氷の塊が出現した。
あまりに突然のことに、一瞬動きを止めるデュラハンたち、その直後、その氷の塊は弾かれたような急激な動きで爆発的なスピードで飛び、それは女の首へと直撃した。
ゴキィッ! という骨の砕ける音、男の首を抱えたまま崩れ落ちる女の身体、そして女の身体は男の首から手を離す、男の首はごろごろと地面を転がる、砕けて死んだ女の首を放り投げて自分の首を拾いに行こうとする男の身体、だが。
そのスキを見逃さなかった
「えいっ!」
と硬化させた風呂敷を手裏剣のように投げた。
それはシュルシュルシュルッ! と音をたてて回転しながら飛んでいき、
ズバンッ!
小気味いい音とともに、男の首は両断された。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
俺たちの荒い呼吸音がダンジョン内に響きわたる。
勝った。
勝ったぞ。
〈やりやがった〉
〈ヴァンパイアロード、バジリスク、デュラハン二匹、これでSSS級を四匹倒したことになるぞ〉
〈このパーティが現状世界一で間違いないな〉
〈お兄ちゃんのスキルの汎用性がやばすぎる〉
〈マネーインジェクションってすごいな〉
〈いっとくけど、今はまだスパチャ頼りっていう制限かかっているからな、一度地上に帰還してお金集めたら世界一どころじゃないぞ〉
〈これ、探索者のノーベル賞っていわれるボスウェル賞間違いなし、アニエスは二度目の受賞だな〉
〈いやまじでボスウェル賞は絶対だろ、生きて帰れればだけど〉
〈ところでみっしーってどこにいったの? 画面のどこにも映ってないけど〉
〈あの氷の魔法、みっしーの魔法だよな? どっから打ったんだ?〉
「よっしゃやったー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ
「あっつーい! いやあ、足一本やられちったよ、回復頼むよモトキ」
激闘を制したばかりのローラは一本結びにした銀髪を手で払って冷静にそう言い、
「基樹さんに教えてもらった魔法、やっぱ強いねー」
とみっしーが言う。
みっしーが言うんだけど、あれ、どこにいるんだ?
声だけ聞こえて姿が見えないんだけど。
「えへへ、これ結構長いこと効果が続くんだよねー。私、しばらくは透明人間になってまーす!」
ああ、そうか、なるほど。
みっしーはまだ持っていたんだな、そのアイテムを。
「そ。不可視化のポーション、一本十二万円! いざというときのために私とマネージャーとカメラマンの分、三本持ってたから!」
そして見えない場所から至近距離で二千万円のインジェクションがかかった攻撃魔法をデュラハンにくらわせたということか。
それが決定打になった。
やるじゃないか、みっしー。
お、俺の身体も動くようになってきたな。
「あ、お兄ちゃん、見て! アイテムボックス!」
お、本当だ、いいものが入っているといいんだけど。
……あの話題にはなんとなく誰も触れないまま、俺はアイテムボックスの解錠にかかった。
中に入っていたのは、げんこつくらいのおおきさの、石ころだった。
「……ただの石ころ……?」
がっかりしてそれを持ち上げると、ローラがそれを見て驚いた表情を見せて叫んだ。
「賢者の石じゃん!」
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