第83話 環境保護
「キョアアアアアアァァァアァ!!!」
セイレーンが、甲高い声を出した。
空気が震える。
内臓がひっくり返るような不快感。
なかなかやるじゃねえか、その攻撃、めちゃくちゃ効くぜ。
マネーインジェクションの効果はセイレーンの音響攻撃を防ぐことはできないみたいだ、みっしーはさっきと同じように嗚咽を繰り返し胃液をだらーっと口から垂らしている。
俺はぎりぎり意識を保っている。
今の一撃で俺から攻撃能力を失わせなかったのがお前のミスだ。
なぜなら俺には2000万円分のマネーインジェクションの効果がかかっている。
2000万円だぞ?
あのSSS級モンスター、アンジェラ・ナルディやバジリスクにすらこんな高額を費やしていない。
「地の底の底、燃えさかるマグマ、すべてを焦がし溶かす灼熱の溶岩!」
俺が呪文の詠唱をはじめると同時に、セイレーンは水の中へと逃げ込む。
無駄だ。
今の俺の攻撃を水中に潜ったところで防ぐことはできない。
俺の呪文の詠唱と同時に、なんとか意識を保っていた
「輝け! あたしの心の光! 七つの色、虹の力、壁となりてあたしたちを護れ!
そして俺の魔法の詠唱は続く。
「燃えろ、俺の魂! 俺の力を、心の力を、魂の力を、血液を、筋肉を、すべてを燃料に変え爆ぜろ! 火砕流となって敵を滅しろ!」
この湖の底、どこかにセイレーンが逃げ込んでいるんだろう、でもな、2000万円のマネーインジェクションを行った俺の攻撃魔法を前にしてはどこにも逃げ場なんてない。
「
俺は湖の水面に向かって攻撃魔法を放った。
火山の噴火と同等の威力の火砕流が爆音とともに俺の手の平から出現する。それは水圧をものともせずに、湖底まで達した。
コンマ数秒後に、湖全体が沸騰する。
セイレーンの音響攻撃以上とも思えるほどの破裂音とともに、ダンジョン内全体に大爆発が起こった。
水蒸気爆発ってやつだ。
あまりの威力にビキビキッ! とダンジョンの天井にヒビが走る。
衝撃波が魔法の防壁越しでも俺たちを襲った。
正直、この防壁の魔法なしだったら俺たちも無事ではすまなかっただろう。
……マネーインジェクションのやりすぎも考え物かもしれないな。
轟音と熱風がこの地下十二階を支配する。
沸き立った湖面が鎮まるまでに、ゆうに十分はかかった。
階層内には熱された水蒸気が満ちている。
この攻撃を受けて生き残れるモンスターがいるわけがなかった。
「あ、お兄ちゃん見て! あそこに!」
沸騰した水にゆだられて、白く変色している。
「……煮魚になっているね……」
ローラが呟くと、
「さすがに上半身だけでも人間型のモンスターは食べたくないなー……おえっ、まだ吐き気が……」
みっしーが口を拭いながらそう言った。
ローラは目をすがめて、
「でもさー、ほら、人魚の肉を食べると不老不死になれるとかいうじゃん。みっしーは不老不死になりたくないの?」
「人は死ぬから輝くの! 花の命は短いから美しいんだよ! ってかじゃあローラが食べて見せてよ」
ぷかぷかと浮いてこっちに流れてくるセイレーンの死体。
うーん……煮えちゃって直径十センチはある目の中が真っ白になってる……。
下半身はそりゃ魚なんだけど、上半身は人間の女性の裸っぽいからさー。
不老不死と引き換えでもこれは食べたくない……。
ローラも同じことを思ったのか、
「……うーん、ごめん、許して……っていうか、一匹だけじゃないじゃん」
確かに湖面のあちこちに同じ形をしたセイレーンの死体が浮いている。
セイレーンだけじゃなくて、ウミヘビみたいなモンスターとか、ワニみたいなモンスターとかも、プカプカと……。
「基樹さん、この湖の生態系根本から壊しちゃったね……」
みっしーが呟く。
「勘弁してくれよ、こっちだって命がかかっているんだよ……。ダンジョン内の環境保護とか聞いたことないぞ……」
しかし、俺のマネーインジェクション、お金を一千万円単位で使えるなら無敵だと思ってたけど、思いのほか弱点があるなー。
あまり攻撃力をあげすぎるとさっきみたいに自分たちも被害を受けそうだし、あと思ったよりも防御力、特に特殊能力の防御力があがらないみたいだ。
物理的な攻撃には強いんだけど、さっきのセイレーンの音響攻撃はまともにくらったしな。
モンスターの攻撃の種類によっては、あまり慢心するとピンチに陥りそうだ。
ちなみに、カミツキガメのモンスターはアイテムボックスをドロップしてたけど、中身はただの薬草だった。
うーん、しょぼい。
「……着替えがほしい……」
「まじでさー下着の着替えがほしいよ。全世界にこの風呂敷姿が配信されてるとなると、ちょっと恥ずかしいよねー」
「お兄ちゃん、気合でアイテムボックスから女性ものの服を出してよ……できればおしゃれなやつ」
いやー、ダンジョン内のアイテムボックスからおしゃれな服はでてこないと思うぞ……。
エッチな水着とかなら俺も大歓迎だけどな。
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