第20話 水色が映える

「くはぁぁぁ!」


 叫び声をあげてヴァンパイアの身体は縦に真っ二つに割れた。

 そして細かい赤い霧となってちりぢりになっていき、嘘のように掻き消えた。

 ……やった、のか?


紗哩シャーリーは!?」


 俺は妹に駆け寄る。

 紗哩シャーリーは壁に寄りかかるようにしてへたり込んでいて、ガタガタと全身を震わせていた。

 汗をどっさりかいていて、サイドテールにしている明るい色の髪の毛がほっぺたにくっついている。


紗哩シャーリー! 俺がわかるか!?」


 うつろな目で俺を見る紗哩シャーリー

 赤かった瞳は普段通りに戻っている。


「牙は? 牙は、もうないか!?」


 指で無理やり紗哩シャーリーの口を開けさせる。

 ……うん、牙はもうない。

 よし、確実にあのヴァンパイアをやっつけられたってことだ。


「……お兄ちゃん……?」

「よかった……。大丈夫みたいだな……」


 心底ほっとする。

 俺にとって一番大事な、たった一人の妹なのだ。

 無事で、本当によかった。

 そこにみっしーも駆け寄ってきた。


紗哩シャーリーちゃん! 大丈夫? 大丈夫なの? あーもう、びっくりした、怖かった、どうしようかと思ったよ、もう、ほんとによかったぁ!」


 そして紗哩シャーリーにぎゅうっと抱き着いて安堵の声をあげる。


〈倒したー!!〉

〈銀の銃弾なしでもいけるんだな〉

〈閃光の魔法でヴァンパイアにダメージ入るのか〉

〈お兄ちゃんのスキルやばすぎだろ〉

【¥10000】〈すごいお兄ちゃんかっこいい〉

〈特定した。やっぱりネームドだぞあいつ。アリシア・ナルディだ〉

〈名前付きのSS級ヴァンパイアを倒したってこと?〉

〈400年前からの伝説のヴァンパイアじゃねーか〉

【¥50000】〈みんな無事でよかった〉

〈みっしー、パンツ上げ忘れてるよ〉


「!? ひゃーーーーーーーっ!!」


 そのコメントで、みっしーが悲鳴をあげた。

 なるほど、おしっこの最中に襲われたもんだから、パンツを上げきるひまもなかったらしく、水色のショーツが中途半端に太もものあたりまでにしか上がっていない。

 っていうかみっしーの太もも、めちゃくちゃ肌がきれいで、そこにショーツの水色がすごく映えるなー。

 なんかこう、芸術作品みたいに綺麗。

 思わずまじまじと眺めてしまった俺の顔を見て、みっしーは、


「ひゃーーーっ!!」


 ともう一度悲鳴をあげた。

 うわ、人間の顔ってこんなに赤くなるもんなの? ってくらい顔を真っ赤にして、


「カ、カメラだめ!」


 言われて俺はすぐにカメラを手でふさぐ。

 すげー、耳も真っ赤だ、さっきのヴァンパイアの瞳より赤いぞ。


「も、基樹もときさんもあっちむいて!」

「おう、悪い」


 みっしーは慌ててパンツを履きなおしているようだ。

 やっぱり十六歳の女の子、こういうのは恥ずかしいんだろうな。

 ……初めて会ったときは俺にお尻の穴を見せようとしてたけどな(いっとくが紗哩シャーリーに目隠しされたので俺は見てない)。

 ま、あれも命がかかっていた場面だからしょうがないか。


「あっぶな! 下半身まるだしでカメラにうつるとこだったよ……」


 そもそも下半身にはスカート代わりに風呂敷を巻いているだけなわけで、多分おしっこするときはそれも外してたんだろうな。

 その風呂敷もかなり雑に巻いてあったんで、よっぽど慌てたんだろう。

 ……ヴァンパイアに襲われて命の危機だったわけで、慌てて当然だけどさ。

 しかしまー、実は、俺はそれよりも気がかりなことがあったので、正直みっしーのパンツどころではなかった。


「なあ、コメント欄のみんな……ヴァンパイアに詳しい奴、いる?」


〈ヴァンパイアに詳しい奴?〉

〈俺はわからんぞ〉

〈私、卒論がヴァンパイアだったよ、まだ資料家にある〉


「じゃあ聞きたいんだけど……ヴァンパイアに噛まれたら、ヴァンパイアになる。噛んだ元のヴァンパイアをすぐにやっつければもとにもどる。そこまでは俺も知っているんだけどさ。じゃあ、ヴァンパイアに噛まれてヴァンパイアになった人間に、さらに噛まれた直後に最初のヴァンパイアをやっつけちゃった場合……どうなる……?」


「え、基樹さん、それって……」

 

 パンツを履きなおしたみっしーに、俺は腕を見せた。

 そこには、紗哩シャーリーの牙によってできた二つの穴。

 血がたらーっと流れ出ている。


「さっき、紗哩シャーリーにかまれてしまった」

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