第17話 脳みそがとろけそう

 ほかほかと湯気を立てているコッヘルが並べられた。

 アウトドアやらない人に説明すると、コッヘルとはキャンプとかでよく使うあれだ。

 調理器具兼食器になって折りたたみできる取っ手がついている、あれだあれ。

 ダンジョン探索でもおなじみなアイテムなわけだ。

 さて、俺たち三人の前に、二つずつコッヘルが並べられている。あ、おれのは飯盒はんごうとそのフタだけど。

 すごくいい匂いが漂っている。

 うまそう。


「米と一緒に炊いて塩で味付けしたのと、あとカレー粉で煮たのがあるよ。どっちかがニワトリ部分で、どっちかが蛇!」


 紗哩シャーリーがいたずらっ子みたいな笑みでそういった。


「……蛇かー……どっちかなー……」


 みっしーは二つのコッヘルを見比べている。と、ふと思いついたようにいった。


「結局私の足は料理しなかったの? あれ食べてもよかったのに」

「それは倫理的にやばすぎでしょということで全会一致で却下になりました」


 紗哩シャーリーが冷たく返す。

 いやさすがにそれはまずすぎだろ、いくら命の危機とはいえなー。

 人の身体を食べるのはなー。やばいだろー。

 ので、ダンジョンの片隅、地面の柔らかいところがあったからそこに丁寧に埋葬しておいた。


「ね、あの足にさ、1000万円くらいインジェクションしたらもう一人の私が生えてくるかな?」

「怖いこと言わないでくれ」


 実際やってみたらどうなるんだろうな、怖すぎて考えるのもいやです。


 まあそんなことはともかく俺はもう腹減りすぎておかしくなりそうだったので、、


「とりあえず食うか。じゃあ、いただきます!」


 といってハシをとる。

 さて米と一緒に炊いた水炊きの方からいただくか。

 肉片をつまみ上げると、ほどよく脂がのったぷるんぷるんの肉。

 鳥ガラダシのいいにおい。

 それを口に放り込むと、


「あち、あち、あち……」


 もちもちとした食感、でもしっかり歯ごたえはある、口の中に広がる脂の甘味。

 うまいうまい!

 あまりのおいしさに脳みそがとろけそうになる。

 熱いのに、思わずがっついてしまう。

 ダシがよく出たスープも絶品で、すするのを永遠に止められないぞ。


 お次はカレー味の方。

 とはいってもカレーは風味付け程度につけられているらしく、カレーですべてをうわぬりされてるわけではない。

 こちらはさっきよりも硬めの肉で、口にいれると……うん、ささみ肉かな。わりと歯ごたえはあるし、特に癖はない。

 癖がないせいで、これがまたいくらでも食える。

 なんだろ、ささみ肉なんだけど白身魚の風味もプラスされていて、うん、こっちが絶対蛇だと思う。

 ふと顔を上げて見ると、俺がわしわしと食べているのを紗哩シャーリーがニコニコ顔で眺めていた。


「お兄ちゃん、おいしい?」

「おお、これはうまい。紗哩シャーリーはほんとに料理がうまいなあ」

「えへへー。うれしー」


 そんな様子をカメラで撮っているみっしー。


「おいおい、こんなとこまで撮るのかよ」

「いやいや、サバイバル生活では食事シーンこそがハイライトでしょ。よし、じゃあこのミニ三脚でここに固定して、と。じゃあ、私も食レポいきましょうかね」


 そして肉をパクりとほおばるみっしー。

 とたんに、


「んーーーーー!! これ、おいしーーーー!! いつか食べた比内地鶏よりもおいしいかも! なにこれ、モンスターってこんなにおいしいの? 濃厚なんだけど!」

「まあ運動量がそのへんのニワトリとは比にならないからな……きたえこまれてる肉はそりゃ歯ごたえが抜群だよ」

「うまい、味の深みが違う! このスープもやばいよ、味の深みがマリアナ海溝だよ! あとこっちのカレー味は、と。モグモグ。んまー! 肉の存在感すごい、でもこれあんまり食べたことない食感、こっちが蛇でしょ?」


「せーいかーい!」


「だと思った! でも全然癖がないねえ、蛇とか見た目は臭そうなんだけど、獣臭さもないし、こりゃおいしいわ。紗哩シャーリーちゃん、ぜったいいいお嫁さんになれる! っていうか、私のお嫁さんになりませんか?」

「えー、どうしよ、お兄ちゃん?」


紗哩シャーリーは俺のだから誰のお嫁さんにもなりません」


「えへへ、だって、残念だったね、みっしー!」


〈うまそう〉

〈S級モンスターを食ってるぞこいつら〉

〈うわーほんとおいしそうに食べるな〉

〈シャーリーちゃん、俺がお嫁さんにほしい〉

〈むしろ俺がシャリちゃんのお嫁さんになりたい〉

〈いいこと思いついた。俺がお兄ちゃんのお嫁さんになればシャリちゃんが義妹になるよな? 俺男だけど〉

〈ところでそのS級モンスター、いままで人を食ったりしてないよね?〉


 そのコメントを見てハシを動かす手をピタリと止める俺たち。


 おれもハシでつまんだ肉片をまじまじと眺める。

 いやそんなまさか……でもなあS級モンスターだしなあ……。


「いや、そんなこといったら海の魚だって食べられなくなるから! 大丈夫だよ!」


 みっしーの言葉にはげまされて、再び鶏肉と蛇のスープを口にいれる俺たち。

 いやだってまじでおいしいんだって、これ!

 あと食わなきゃ身体がもたんしな。

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