第16話 わき代

「お兄ちゃんお兄ちゃん」


 紗哩シャーリーが片手にナイフをもって俺の袖をひっぱる。


「ん、なんだ?」

「300円分でいいからさー、……ヤク、打ってくれない?」


 そして注射器で自分の腕を打つジェスチャーをしてにやりと笑う紗哩シャーリー


「ヤクっていいかたはやめてくれ。誤解を招く……どうしようってんだ?」

「決まってんじゃん! こーんなでっかいモンスター、皮も分厚いしこんなナイフ一本じゃ皮はぐだけで三日かかっちゃうよ! パワーアッププリーズ!」


 もーしょーがねーなー。

 300円くらいならいっかー。


「インジェクターオン! セット! さんびゃ……うーん、1000円!」

「おっほー! お兄ちゃんふとっぱらー! 大好きー!」

「はいはいどこに打つ? 肩でいいか?」

「肩はほんとは痛いからやだー。ここ、ここ。二の腕の裏のとこ。前にインフルエンザの注射したときにさー、お医者さんがここが痛くないんだよって教えてくれた」


 紗哩シャーリーは腕をあげてそのポイントを指さす。

 ちなみに紗哩シャーリーは大きめのデニムパンツに半袖のカットソーというシンプルないでたち。

 腕をあげちゃうと、わきの下が見えちゃうんだよなー。


〈わきー!〉

〈シャリちゃんのわき〉

〈わき助かる〉

〈わきかわいい〉

〈エッッッッ〉

〈あたしはわきより耳派〉

【¥5000】〈今日のわき代です〉

〈お兄ちゃん、妹さんをお嫁にください〉


「絶対にやらん! こいつは俺のだからな!」

「もー、お兄ちゃん、なにいってんのー。そりゃもしあたしが妹じゃなかったらお兄ちゃんと結婚するけどさー」


〈ブラコンか〉

〈僕がお兄ちゃんですよ〉

〈あれ、俺もお兄ちゃんだった気がしてきた〉

〈俺、十八歳だけど紗哩シャーリーちゃんのお兄ちゃんだと思う。年下のお兄ちゃんはどうですか?〉


「あんたたちうるさい!」


 紗哩シャーリーが頬を膨らませて言う。


「ほら、お兄ちゃん、はやくここに注射して」


 俺はカメラに手でフタをして、


「なあ紗哩シャーリー、この体勢で俺からだと、ブラジャーも丸見えだぞ」

「べつにいいよ、お兄ちゃんだし」


〈そこかわれ〉

〈待って真っ暗で見えない〉

〈ふざけんなその手をどけろ〉

〈お兄様! お願いです! 見せてください!〉

【30000円】〈色だけおしえてください。お代は置いておきます〉

〈何カップですか!?〉

紗哩シャーリーちゃんの胸のサイズってどのくらい!?〉

〈色だけ! 色だけでいいからお願い! 教えて!〉



 yphoneでじぃっとそのコメントを見ていたみっしーが、ぼそっといった。


「これ、私の事務所の人をモデレーターにしていい? あんまりなコメントはNGにしてもらうから。永久BANでもいい人ちらほらいるし」

「ん? まあいいぞ」


〈すみませんでした〉

〈ごめんなさい〉

〈まじで許して〉

〈申し訳ございませんでした。今回だけは許してください〉

【¥50000】〈慰謝料〉


 コメント欄の馬鹿たちとそんなふうにじゃれあいながらも、俺は紗哩シャーリーにインジェクションしてやった。


「うっし! パワー満開! やるぞー」


 紗哩シャーリーは腕まくりしてコカトリスの解体にとりかかる。

 あーあ、腕なんかまくるとまたわきの下が見えるからあの馬鹿たち騒いでるだろうなー。


「へー、紗哩シャーリーちゃん、モンスターの解体なんてできるんだ」


 みっしーが感心したようにいう。


「ああ、あいつは小さいころから親の実家の田舎でニワトリしめるのとか大好きだったからな。野生児だよ野生児」


 コカトリスの皮をはぎながら紗哩シャーリーが抗議の声をあげる。


「野生児じゃないもん! あたしは都会が似合う女! うわ、ここの手羽元、おいしそう! ……コカトリスってもも肉がないのが難点だよねー。そのかわり蛇肉になっちゃうのかー。これ、どうやって料理しようかなー」


 メリメリメリ! と音をたてて、コカトリスの蛇の部分の皮をはいでいく紗哩シャーリー


「……野生児だねー」


 みっしーも同意してくれた。


「みっしーは料理は?」


 聞くと、恥ずかしそうに上目遣いで、


「私、料理はいまいち……。食べるの専門なんだよね」


 実は俺もそうなんだよな。

 料理は家でもダンジョンでも全部紗哩シャーリーにおまかせしているのだ。


「保存加工するけど、まずはいったん腹ごしらえしよー」


 という紗哩シャーリーの言葉に甘えて、メシにすることにした。


 あ、そうだ。

 ひとつ言い忘れてたが、今日は薄いピンク色だったぞ。

 大きさはカップとか正確にはしらんけど大きすぎも小さすぎもしないぞ。




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