第二十八話 日中戦争(9)共産党壊滅と満ソ国境の緊張

 1938年3月28日、統合参謀本部がを発動し、日満連合軍は旧中華ソビエト共和国領へと侵攻を開始した。


 この時の日満連合軍の兵力は、日本の第一機甲師団・第二師団・第三師団・第十九師団、満州王国の第二禁衛軍・第一歩兵軍・第三歩兵軍、合わせて七個師団117000人となっており、南京戦の時よりも兵力が多いところに、両国の反共産主義姿勢がよく現れていた。


 迎え撃つ中国軍の兵力は、主に内陸及び河南地域が活動地域であり未だ大きな損害を受けていない、旧紅軍の新四軍約12000人に加え、上海攻略戦・南京戦・徐州攻略戦などで内陸部である延安付近に撤退し、暫定的に延安守備隊として再編されていた中華民国軍約25000人となっており、兵装面での劣勢や敗残兵が兵力の大半を占めていることなどの多くの不安要素を抱えていた。


 旧中国共産党の毛沢東もうたくとうらは、中華民国政府に対し主力部隊の派遣と延安死守を要請したものの、中国軍の大半は日本軍との連戦で疲弊しており、蒋介石しょうかいせきら国民党の面々は共産党が滅びた方が戦争遂行が楽になるとすら考えていた。


 その為、中国軍主力部隊の派遣は敵わず、延安近辺で徴兵された新兵で構成された幾らかの師団の派遣と、暫定的に編成されていた延安守備隊ので延安を死守するよう命令が下された。


 この辛辣な対応に、共産党上層部は蒋介石に捨て駒にされたと怒り狂ったもののもはやどうすることもできず、延安防衛に従事する全部隊にを配属し、現地住民を躊躇することなく犠牲にする戦闘方式を採用することで文字通り延安を死守すると決定していた。


 いくら優秀な日満連合軍でも地の利が中国軍側にあることは事実であり、共産党の指揮下で死に物狂いで抵抗する中国軍相手に苦戦を強いられることとなった。


 延安までに存在する全ての村が焼き払われ、肥沃な農地は軍靴によって容赦なく踏み躙られており、日満連合軍は進撃路の近くに暮らしていた一般民衆救援の為に大量の物資を後方から運搬しなければならなかった。


 この見境ない焦土作戦によって、中国軍は日満連合軍の進撃速度を遅らせ、停止させることには成功した。しかし、日中戦争開戦以来数多くの戦場で勝利の鍵を握っていた空からの脅威には敵わなかった。


 中華派遣航空軍は、延安攻略停滞の報告を受けるとすぐさま出撃し連日前線及び延安への爆撃を繰り返した。前線部隊からの報告で、督戦隊により戦闘を強要されている可能性を示唆されていた空襲部隊は、前線から少し後方に布陣している督戦隊と思われる部隊に対し優先的に爆撃を敢行、通常部隊との誤認は度々あったものの数十機の部隊によって爆撃が行われた為、督戦隊の壊滅が相次ぎ前線の中国軍の士気は急速に低下していった。


 特に督戦隊の脅しによって戦闘を行っていた部隊は、督戦隊が壊滅するとすぐさま日満連合軍に対し降伏、中にはする事例も存在しており、延安守備隊の統制は少しづつ崩壊していた。


 当然、統合参謀本部はこの隙を逃さず空中投下などの新戦術を活用することで前線への確実な物資運搬に成功した。これを受け、日満連合軍は進撃を再開、延安市内へ急速に接近し始めた。


 一方、延安の共産党上層部は、前線部隊崩壊の報告に大混乱に陥った。で抗日を誓い合った中華民国政府には見捨てられ、最後の望みであった軍が崩壊した今、自分たちの命を保証するものはどこにもなかった。


 そして血迷った共産党上層部は、中ソ国境近くの中国大陸奥地にまで再度の長征を行い体制を立て直すことを決定、延安守備隊を捨て駒とし新四軍の精鋭兵のみを連れて延安脱出を試みた。


 しかし、捨て駒にされた延安守備隊と延安市民が偶然、共産党上層部の延安脱出を知ってしまったことで、状況は大きく変化する。


 共産党の横暴に激怒した延安市民と守備隊の一部が、共産党に対し反旗を翻したのだ。蜂起した軍勢は、共産党関連施設を次々と襲撃、共産党上層部を捕縛し日満連合軍に突き出そうと考えていた。


 この事態に、毛沢東らは予定を繰り上げ新四軍の精鋭と共に延安から脱出、蜂起軍からの逃亡を図った。しかし、延安市民の目を逃れることはできず、新四軍と蜂起軍は戦闘状態に入った。


 延安市民が協力しているとはいえ新四軍の精鋭は強力な部隊であり、蜂起軍はギリギリのところで毛沢東らを逃してしまうかに思えた。


 だがここで、延安守備隊蜂起を察知した中華派遣航空軍が、共産党撃滅の為に派遣した攻撃隊が延安上空に到達、市内で激戦を繰り広げている集団を発見し、共産党上層部らしき部隊へ猛爆撃を敢行した。


 延安蜂起軍に損害が出るなど色々と問題のある爆撃になったものの、共産党上層部は周恩来しゅうおんらいら先遣隊を残し全滅、中国共産党はした。


 5月19日、日満連合軍は延安市民の大歓迎を受けながらを果たした。同日、日満英防共同盟加盟国は一斉に中国共産党壊滅を発表、中国大陸から遂に共産主義を取り除いたと盛大に宣言した。


 中国共産党を日中戦争から無事脱落させることに成功した日満両国は、の実行によりソ連を牽制しつつ、いよいよ大陸沿岸部の占領に向けて動き出そうとしていた。

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