第4話
「美穂は知らない男の人には絶対ついていかない。きっとあのお姉さんと一緒に図書館の外に出てしまったんだと思う」
お姉さん。
美穂と話していた高校生は女生徒だったのです。残虐な犯行をしたのは男に間違いはないでしょう。だから彼女は犯人ではないかもしれません。けれども犯人ではないからといって事件とは無関係だ。と考えるのは今考えても捜査が杜撰だったと言えるのではないでしょうか?
私の証言はまるでこどもの戯言扱いでした。仕方がない部分もあります。妹が、美穂があんな死に方をして、ショックのせいなのか私はあの女生徒の顔を全く思い出せなかったのです。もう忘れていてもおかしくない、母が作った手提げかばんの柄も、あの旧図書館の天井の色も、床の絨毯の模様も、美穂と一緒に座った絵本のコーナーのソファーのパステルカラーも私ははっきり覚えているというのに、どうしてもあの女生徒の顔が思い出せなかったのです。髪が長かったか、短かかったかさえも分かりません。
私が唯一覚えているのがその女生徒が着ていた制服でした。
そうです。この県立桜山高校の濃紺のブレザーです。全国的には、どこにでもありそうな濃紺のブレザーですが、T市では桜山高校だけでした。
三十年たった現在も制服が変わっていないというのは私にとっては苦痛でたまらないことの一つです。
町中で歩く女生徒の姿を見る度に歯噛みしてしまう私の気持ちを少しでもご理解いただけたなら、私が息子の久がこの桜山高校を志望すると言った時に反対したことも頷けるのではないでしょうか。
久はとても優しい子どもでした。私はシングルマザーで開業医ですので毎日忙しく、慌ただしくしているのを知ってよく聞き分けてくれたのです。
唯一、聞き分けてくれなかったのが志望校でした。
そして、もうどうすることもできませんが、私は最後まで反対するべきでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます