09 陰キャカス! と妹に詰られる兄
私の名前は、
水無瀬
ひっさびさに兄が帰ってきた。凄い臭い状態で。なんであんなに臭いんだろう。
兄がダンジョンに行ってからというもの、母親は毎日、ダンジョンでの死亡事故などの情報を見て気が気じゃなかったみたい。
部屋を定期的に掃除していつ帰ってきても良いようにしてたし。本人には決して言わないけどさ。
男の人は
ちなみにお兄ちゃんの稼ぎは0。武器も持ってないらしい。
あ、服を台無しにしたからマイナスだ。さすがのわたしも擁護できない。
多分、このままお兄ちゃんは稼ぎが0のまま死んじゃうと思うので、私は無難に勉強をすることにしてる。
『
『となると、海外に行っちゃう訳ですか』
『日本にい続けたとしても、やはり本場は違いますから。といっても海外のギルドの下部組織は日本にもありますので、そちらに加入する
なんの気なしにテレビをつけたみたら、
勉強の休憩中に情報収集がてらに見てやろう。
『
『桜井さん。そのオブジェクトダンジョンについても解説をしてもらってもいいですか?』
『はい。ダンジョンには2種類ありまして。通称『オブダン』と『スタダン』があります。オブダンは固定ダンジョンとも言われており、各地に存在しているダンジョンになります。スタダンは偶発的に発生をするダンジョンのことを指します。人口が少ない過疎化地域ではスタダンの発生から攻略までをスムーズに行えず、ダンジョンブレイクを起こす地域が多発。結果、我々日本人は生活区域を絞って現在の
『ここで速報です。この度、日本でA級の
パリッ。むしゃむしゃ。
「ほえ〜……2300万。Cランクなのにそんなに高いんだ」
テレビの向こう側には赤髪で青い瞳の人が高そうなコートを羽織って手を振ってる。顔もイケメンだ。年齢は23歳。お兄ちゃんの6つ上か。
(やっぱり、スキルってのは重要なんだな。魔法を使えるって凄い)
契約金とやらがあるとは聞いてたけど、やっぱりスキル一つでこれだけ価値が違うんだ。お兄ちゃんは3つスキルを持ってる。多い方らしいけど……陰キャとぼっちがなぁ〜……。
するとダンダンと階段を降りる音が聞こえ、居間を覗く兄の姿。
「おにーちゃん。どうしたの? どっかいくの?」
「あ、えっと。母さんとか怒ってなかった?」
「ううん。好きにさせたらいいのよ〜って言ってた」
「ならよかった」
「煎餅食べる? おいしーよ?」
「いやぁ、いいかな〜……」
「ふぅーん」
なんだか兄の様子が変である。
楽しそうな顔でチラチラとこちらを見てくる。やっぱり煎餅が欲しいのか?
スッと煎餅を近づけると、おどおどしながら受け取って食べていた。
これは、なるほどな。わかったわかった。
「バッドスキル持ちのお兄ちゃんはシーカーに向いてないんだから、素直に就職しなって」
「う、うるさいな。なんだよ急に」
ほほう。言い方は少し強めだけど、どこか嬉しそうな雰囲気。
わかったぞ。お兄ちゃんは、止めてほしいんだ。
自分一人では稼ぐって言っちゃったから後戻りしにくいってことだね?
「陰キャはまだまぁいいけど、ぼっちは最弱のスキルだもんね!!」
「うるさいなぁ」
「陰キャカス! ぼっち雑魚!」
「うっ……」
「さっきのテレビの人みたいになればいいのに! でっかいギルドに入れ!」
「ぐっ」
あれ、すごく悲しそうなお顔をしてる。
「
「あれれ? てっきり止めて欲しいのかと思ったんだけど」
「止めて欲しいって? なにが?」
「いや、
「違うよ! 違う違う!」
「なあんだ。じゃあ、大金を稼いでこないとだよ? お母さんはそれでやっと許すって言ってた」
「だ、大丈夫だよ。すぐにまとまった金を用意するから……」
「借金取りに追われてるみたいな言い方だなぁ。ていうか、この人知ってる? さっきの人。Cランクなのに2000万円くらいで契約したんだってさ」
兄に先程の人の写真を見せた。名前が特徴的だったので覚えていたのだ。
「しらばい……あぁ、知ってるよ。というかスポーツクラブ一緒だった」
「うぇ。サッカー?」
「そうそう。ボクが1年生のときに6年生だった。話したのは一回くらいかなぁ。へぇー……2000万、大金じゃん。すごいな。あ、魔法系スキルか」
兄が入っていたサッカークラブは、ここらの地域じゃ有名なとこだった気がする。
個性が大事な世の中なのでとりあえず母親が体験だけさせにいった……とかなんとか。
そこにいたってことはバチバチの陽キャなんだろうなぁ。おっと、兄は陰キャだった。
「なんかコネかなんかで同じとこ入れてもらえないの? まのぎるど? だっけ」
「無理無理。そこの加入制限はCランクからだからだし、連絡先なんか持ってないし」
「じゃあ、他のそのスポーツのアレで知り合いはいないの〜? なんでもいいからさ」
「知り合いはいるけど……。あ、それこそ葉加瀬だよ。覚えてる?」
「えーと……昔に家に来てたカッコいい人?」
「まぁクール系ではあったか。
ハカセという人はなんとなく覚えてる。家によくゲームしに来てた。
お兄ちゃんの唯一と呼べるほどの友人だ。なんであんな人がお兄ちゃんと仲良かったのか未だに分からない。
「そういえば、連絡取ってないな。今度とってみるか」
「続報を待つ」
「吉報をもたらせるよう頑張るよ」
「ふへへ」
久々の兄との会話。コミュ障な訳じゃないけど、2年間ほとんど誰とも会話してこなかったんだろうなぁ。可哀想。
だから、独り言が激しかったのか。本当に誰かと喋ってるみたいな感じだったもんな。今後、帰ってきた時くらいは話しかけてやろう。
「ンで、どこに行くの? こんな朝早くから起きて。どっかいくんでしょ?」
「ダンジョン! 試したいことがあるんだ」
「またぁ? 今度はいつ帰ってくるのさ」
「た、多分、今日中には帰れるよ」
「じゃあ、行ってらっしゃい」
せわしなく出ていった兄を見送り、ふわ、とあくびしながら居間に戻る。
(なんであんなに視線が泳いでたんだろう。久々の会話だから、緊張してたのかな)
それにしても凄いキョロキョロしてた。
……というか、あれはあれか。隣に誰かいるみたいな視線の送り方だった。
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