第6話 探偵部の文化祭
次の日、朝から気分がよかった。駅で待っていてくれた彩夏に向かって、大きく手を振る。
「おはよう! 直しの課題、終わったの! 青木君、様々~!!」
「なにそれぇ~? 教えてくれたの辻君でしょ~。青木は何もしてないと思う~」
「そうだね。辻君にもお礼を言わないとだね」
探偵部に誘ってくれたのは青木だし、家に帰ってからも見張っていてくれたと話すと、彩夏は目を見開いた。
「ストーカー!?」
「そんなわけないでしょ~」
「じゃあ、なんで連絡先知ってるの?」
「あれ?」
しばらく考えた後、彩夏が気がついた。クラスのグループから探せば、すぐに見つかったのだ。『ミハネ』で登録しているのだから。
何となく、靴箱に入れられていた手紙の怖さも忘れていった。
一人で駅に向かっていると、厳つい人が立ちふさがった。見てすぐに悪い人だと思った。派手なのとは違う、目の奥から邪悪さが漂ってきているような。
「ねぇ、君、かわいいね~。いいバイトがあるんだけど、やらない? 稼げるよ~」
「いっ!」
──怖い、怖い、怖い!!!
「ねっ! いいだろ?」
その男が美羽の腕をつかもうとする。
「・・・!!」
避けようとしたのに、掴まれた。
「お仕事あったら連絡するから、連絡先教えてよ」
──怖い、怖い!!
美羽はどうしていいかわからず、目をギュッとつぶった。
グッともう一度腕が掴まれた。
「お前に教える連絡先はないってよ!」
恐る恐る目を開けると、赤い髪が目に入った。確か、近所のあっくんのバンド仲間だ。
「お前、なんだ?」
「なんだっていいだろ? 高校生誘ってもいいのかな~? おじさん、一緒に行くぅ?」
交番の方に顔を向けた。
「ちっ!!」
厳つい男は、悪態をつくと逃げていった。
その後、バンドの練習のために合流した敦史に、家まで送られてしまった。駅まででいいって言っても、美羽のことを小さい子だと思っている敦史は家まで送ると聞かなかったのだ。
家についても恐怖は残っていたが、青木から勉強を始めるように連絡が来て、何だか安心してしまったのだ。
「今日、部活ないし、探偵部行ってみる?」
言い出したは彩夏なのに気が進まない様子だ。あれから青木を見る度に、イケメンなのに口が悪いと言っていたから、この前言われたことを根に持っているのだろう。
「え? いいの!?」
「だって、辻君にお礼言いたいって言ってたし」
あれから、コツコツ課題を進めていた。答えを見て理解しているものも多いので真に理解しているとは言いがたいが、写しているだけだった頃より随分とわかるようになった。
正直なところ数学の課題については、青木から逐一進捗を問われて、やらざるを得なかっただけなのだが。
美羽が飛び付いてお礼を言うと、彩夏は照れ臭そうに誤魔化した。
数学準備室に入ると、大きなテーブルに3人とも集まって何かを書いていた。
「あ! 二人ともいいところに来た!」
北野が嬉しそうにすると、辻が止める。
「手伝いに来たわけじゃないでしょ」
「時間があるなら、これだけでも手伝ってくれないか? 俺らには、習字の才能がないらしい。プリントアウトしてもいいんだが……」
青木も疲れ果てた顔で頼んできた。見ると、半紙に大部崩れた『令和』の文字。クロスワードパズルのヒントかな。
「私、無理!!」
筆を見たとたんに拒否した彩夏。美羽は、うっすら鉛筆で下書きをしてから、令和の文字を書いた。
下書きなんて邪道だけど、書道って訳じゃないしね。
それなりの『令和』が出来上がった。
「ホントに助かったよ。後は前日に支度をすればおしまいだな」
「二人とも今日も課題やっていきますか?」
「いや、今日は……え? ミハネ、やってくの?」
彩夏が断りかけたが、頷く美羽をみて驚いた。
課題を進めていると、北野が青木に話しかけた。
「ねぇ、これってさぁ~」
数学の質問だったようだ。青木は丁寧に答えている。
「はっ? ちょっと待った! もう一度!」
三回ほど同じことを聞いていた気がする。
「何となくわかった。じゃあ、この問題のときも・・・」
先週、辻と言い争っている青木と別人に思えて、じっと横顔を見つめていると、美羽を見た青木と目があった。
「ん? どうした? わからないことがあったら聞けよ」
「青木君って……」
──優しいね
何となく言っていいかわからずに、飲み込んだ。
「何だよ!?」
少し、顔を背けた。不機嫌なのか?照れているのか?
「いや……。教えてくれるんだなって思って……」
「俺を何だと思っているんだよ……」
──勉強しろってうるさい、オカンみたい
もちろん、言わずに誤魔化した。
文化祭当日は色々なところを見て周りながら、クロスワードパズルを解いた。色々な場所にヒントが散りばめられていたので苦労することなく解けた。出来上がったキーワードは普通。
『困り事は、探偵部まで』
『令和』がどう使われていたかは、この際言わなくてもいいだろう。
指定された場所に向かうと、辻と北野が受付をしていた。キーワードを伝えると、飴が3つ貰えた。
「二人に店番やらせて、青木はいないの~」
彩夏の責めるような声色に、辻が困ったように頭を掻く。
「青木君は、不具合がないか見に行ってくれています。たまに戻ってきて、僕らと交代してくれますよ」
もともと3人でやるために受付の時間を短く設定し、キーワードがあっていれば飴を渡すだけと簡素化しているので、自分達も文化祭を楽しめていると言う。
「それなら、いいけど……」
「他の出し物に比べたら簡単なものですが、楽しかったですよ」
美羽は、じっくり辻を見ていた。
文化祭が盛り上がっているなか、美羽と彩夏はやることがなくなってしまった。何をするわけでもなくブラブラと歩き回っていると、後ろから肩を叩かれた。
「ねぇ、これ、あげる」
──えっ? 誰?
和風美人と言った感じの女生徒。
「私、多香子って言うの。見たことあるし、1年だよね?? 買いすぎて余っちゃったからあげる」
手に持ったパンを美羽に押し付けてくる。
「あ、あの」
美羽が慌てているうちに、無理矢理パンを持たせると「じゃあね~」といなくなってしまった。
「これは、食べても?」
『困り事は探偵部』だ。探偵部には青木が戻ってきていて、穴や開けた後もなかったので食べてもいいということになった。青木は、パンよりも多香子に興味を持ったようだった。
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