第13話 顛末
結論を言うと、非常にシンプルなやり方であった。
けれども、実際にそんなことが有り得るのか——確証が持てなかったから、大々的に言えなかった。
単独で確認しに行けば良かったのではないか、というアイディアも確かにあったけれど、しかしながら、それは辞めた。
仮説が正しければ、それを隠そうと画策するのではないか? そう思ったからだ。
有栖川学園に入学して日が浅いのは間違いないけれど、この学校が普通のそれとは大きく違うのは分かっている。
分かりたくはなかったけれどね。
或いは、分からせられたのかもしれないけれど。
「……この穴が、何処に繋がっているんだ?」
アリスの言葉に、ぼくは頷く。
というか、ここまでの流れで分かっているものとばかり思っていたけれど、まさか分かっていなかったとはね……。変なところで気付くのが遅いというか、何というか。
まあ、それをアリスに言うのは間違っているかな。
何せ彼女は超能力者が居るという前提でしか、話を進めていなかったのだから。
「……実践しようか」
ぼくはそのままひょいっと穴の中へと入っていく。
皆、あっけらかんとした表情を浮かべていたな。ちょっとだけ面白かった。人を裏切るというのは、かくもここまで刺激的なものなのか……。まあ、これが癖になってはいけないのだけれどね。それを続けていては、人間として生きる術を喪いかねない。
通路は人一人がちょうど通れるぐらいのサイズで作られていて、さらにはスロープになっていた。しかし、スロープといえど、その角度は急だ。きっと下から登ろうとしたって、通路が狭いこともあるけれど、簡単には登れないだろう。それこそ、上からロープでつり上げてもらうぐらいしか、解決策が思いつかない。
暗闇を潜り抜けるのは、あっという間だった。
ぼくは何かにぶつかると、そのままそれを蹴飛ばした。
数秒ぶりに表に出る。眩しい。けれども、視界がぼやける程の衝撃はない。
辿り着いたのは、地上だった。けれども、メインストリートから少し外れた場所で、人の往来は多くない。
「……成る程ね」
そうして、上を見上げると——恐らく和紗が場所を教えたのだろう——アリスたちがこちらを食い入るように眺めていた。
さて。
戻って、推理の続きを披露することにしようかな。
ぼくはそう思い、急いで元の場所へと戻るのだった。
◇◇◇
「……この学校には、昔怪盗同好会というものがあってね」
和紗はぽつぽつと自供し始めた。
自供、と言ったって何か罪を犯した訳でもないし、どちらかといえばネタばらしの方が近いか。
しかし……、怪盗同好会とはまた一風変わった同好会だな。どんなことをしていたのか、皆目見当がつかない。
「怪盗同好会では、どんなことを?」
「簡単に言えば、怪盗になるにはどんなことをするのか……みたいなことを学んでいたらしいですよ。わたしは加入していた訳ではないから、詳しい話は分からないけれどね」
「じゃあ、どうして怪盗同好会を知っているんだ?」
「……簡単に言えば、姉がそうだったんですよ」
同好会に入っていた、と?
まあ、確かにきょうだいで同じ学校に入ることはままあるし、別に珍しくも何ともないよな。
「怪盗同好会であった姉から、色んなことを教わりました。そうした中の一つに、怪盗としての抜け道……同好会が作ってきた秘密のルートもありました」
「それが……これだ、ってことか?」
こくり、と頷く和紗。
「沢山のルートがありそうな言い方だったが……」
「沢山、あるのだと思いますよ。けれども、教えてくれたのは、これを含めて四つ……」
最低でもあと三つはあるのかよ。
どうなっているんだ、この学園は?
「自主性を重んじている学校ですからね。校風とでも言えば良いですか? そういったものがあるからなのでしょうけれど……」
「いや、自主性という言葉便利過ぎやしないか?」
あまりに便利だよ、それ。
「便利過ぎるのも困りものですよね」
それ、ぼくの台詞だよ。
心の中を読むのも、いい加減にしてくれないか?
「とにかく、これで瞬間移動の謎は解けた。……がっかりした?」
「正直言うとね」
そりゃそうだろうな。
超能力者が居ると思っていたのに、蓋を開けたら抜け道が勝手に作られていたのだから。
それを学校に知られてしまったら、どうなるのかは——今はあんまり考えたくないかな。
◇◇◇
後日談。
というよりは、エピローグ……で良いのかな。
あの後も、ぼくは文芸部に在籍することにした。
別に何か面白いのがあったとか、そんな訳ではない。
簡単に言えば、部活動に在籍している、という称号が欲しいだけ。
ただ、それだけだ。
決して、この推理をする日常も悪くないなどと思った訳ではない。そこは、明確に否定しておこう。
そうして、今日もぼくは部室のドアを開ける。
「あっ、聞いてよ。さっき陸上部の部員から鬼火の話を聞いたのだけれど、これって超能力者が絡んでいないかしら!」
……やれやれ。
どうやら、この部活動に居れば、退屈することはなさそうだ。
ぼくはそう思いながら、部室へと足を踏み入れるのだった。
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