第363話 どんちゃん騒ぎ


 「やっと半分超えたか…」


 俺は蟲領域で血をがぶ飲みしながら、独り言を呟く。一年蟲領域に篭って半年休憩ってのを繰り返して、もう随分経った。


 かれこれ、このルーティンみたいなのを十回はこなしてると思う。飽き性の俺が成長したもんだ。


 それでようやく半分。ひたすら作業のように一年蟲を狩り続けてやっと半分まできた。


 「ここの蟲は本当に減らないな。経験値の宝庫としては重用出来るけどさ」


 狩りまくってるのに、少ししたら数が元通りになってるんだ。蟲の繁殖力が凄まじい。まあ、目新しい魔物は流石に見かけなくなってきたが。


 何年か前にモス◯みたいな魔物を見つけた時はテンション上がったなぁ。写真を撮りまくった後に殺したけどさ。なんか滅茶苦茶弱かったし。


 そろそろ帰るか。そろそろ一年も経ってるはずだし。今年はなんの祭りをやってたっけなかな。






 「あぁ。これか。盛り上がってるなぁ…」


 国に帰って来たら首都はお祭り騒ぎだった。まぁ実際、祭りをやってるんだけど。


 今年はブラジルにあるリオのカーニバル的な祭りをやってる。俺は写真でしか見た事がないけど、とりあえず派手な格好をして、歌って踊ってどんちゃん騒ぎをすれば良いんでしょと思ってる。


 これは国民が考えた祭りなんだけどね。俺も迂闊だった。なんか競わせる系の祭りというか、祭典の事ばっかり考えようとしてたけど、何も考えずに馬鹿騒ぎするだけの祭りも確かに必要だ。


 言い方は悪いけど、競わせる系の祭りは何かしら才能が必要になる。でもこういう祭りは必要ない。ただただ馬鹿になってはしゃぎ回れば良い。


 これには結構な投票が入ってたんだよね。進水式でやったような祭りがしたい的な。この祭り以外にも、もう一つ日本であった神輿を担いでわっしょい的な祭りもある。


 って言うか、祭りをやるぞーってなって、第一回がその祭りだった。最初は国民がみんなで楽しめる系の方がいいかと思ってね。


 「楽しそうだなぁ」


 上空に浮かびながら馬鹿騒ぎしてる様子を眺める。ほんとにみんな馬鹿になってる。よきかなよきかな。


 「レト様。お帰りになられてたんですね」


 「ん。さっきね」


 俺が上空腕組みおじさん面してたら、物凄いスピードでドラゴンに跨った一人の軍人の一人が近付いてきた。


 いつの間にかドラゴンライダーが実現してる件について。知らなかった。


 「お祭りなのに仕事をさせて悪いね」


 「仕方ありません。こういう時はどうしても治安が悪くなりますからね。その分祭りが終わった後は特別ボーナスと休暇がありますし」


 お祭りだとはいえ、どうしても参加出来ない人はいる。こうやって治安維持してる軍人やら、祭りでモノを売ってる奴ら。まあ、販売系は稼ぎどきだって言って楽しんでるかもしれないが。


 そういう奴らには補填というか、祭りが終わった後に労うようにはしてる。来年は優先的に休めるようにしたりね。


 「レト様も参加されますか?」


 「うん。城で汗を流してからちょっと見て回ろうと思ってるんだ」


 「そうですか。今日はヴェガ様の新曲の披露もあるみたいですよ」


 「へぇ。そうなんだ」


 ……………ん? ヴェガの新曲の披露? え? あいつ歌うの? 俺、未だにお喋りしてもらった事ないんだけど?


 既に付き合いが百年以上あるのにだよ? いや、俺以外の奴らとは喋ってるのは知ってるけどさ。


 そんな歌手活動的なのもしてたのは知らなかったよ。これは絶対見に行かないと。


 とうとうヴェガの声が聞けるかもしれん。


 

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